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「なぁルベル」
「っ、触んなよ!」
突然、彼の大きな手が僕の腕に触れた。
また良からぬ事をされるのでは、と警戒心を露わにする。
「ルベルもしかして、まだ怒ってんのかよ。今朝のこと」
まるで叱られた犬のようだ、と思う。
耳があれば、シュンと垂れているのかもしれない。
まぁ。全っ然、可愛くないが。
「怒ってる。全方向にな」
このホモ共にも。
訳わかんない、この運命にも。
だからって負ける気はないが。
「おい、エト」
「なんだよ」
また文句を言われると思ったのだろう、デカい身体を精一杯縮こめる姿には、少しだけ笑えた。
「お前って、ゲイなわけ?」
「と、唐突だな。別にそういうんじゃねぇよ。ただ」
「ただ?」
「その、しかめっ面が、ええっと、結構好き」
「あ?」
――なんだそりゃ。
コイツ、僕が怒って喜んでるのかよ。
いよいよ変な奴だな、とドン引きしてるハズなのに。
「ルベル?」
「あ、いや」
なんだか、むしろ悪い気はしないというか……面白がっている自分がいた。
「正直、俺自身もよく分かんねぇよ」
少し不貞腐れたような声と顔で、彼は肩を竦める。
「でもケルタがお前に触れてたら、すげぇムカついた」
「男の嫉妬ってやつ? 醜いぞ」
「茶化すなよ。あー。やっぱり難しい事は、俺には分かんねぇや」
そう言って彼は、困ったように笑う。
僕は何故か、そんなエトをバカにする気が失せた。
「おいエト。ちょっと時間あるか?」
「えっ。まぁ、あるぜ」
――とびきり良い事を思い付いた。
そんな予感を胸に、僕は言葉を紡ぐ。
「剣の稽古、やらないか?」
少し考えて彼は『いいけど』と、ためらいがちに頷いた。
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