7.決闘→剣の稽古

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「本当にやるのかよ」 前夜、軽く雨が降ったらしい。 剣闘場の土の湿り気を、気にしながら言った。 「なんだよ。怖気付いたか?」 単なる稽古だぞ、と嘲ってやる。 エトは、小さく息を吐いた。 「別にそういうんじゃ――でもよぉ」 「なんだよ」 「好きな奴に、剣向けられねぇっつーか」 「ア゙?」 こめかみが、ピクリと脈打つ。 好きな奴、の部分はスルーしてやるとしても。 「君は僕を、バカにしているのか?」 「な、何怒ってんだよ」 僕が一番嫌うこと。 「女あつかい、するな」 自分の方が、実力が上だって思い込んでいる奴の言葉だ。 それは。 曲がりなりにも剣の腕を磨いてきた、僕に対する最大の侮辱。 プライドが高いだの、高慢ちきだの言われた事はある。 しかしそれは、ただの自惚れじゃない。 由緒正しいカントール家。 その名に恥じぬよう、最低限の事はしてきたつもりだ。 「来い。その舐め腐った態度、叩き直してやる」 手に馴染まぬ剣。 それでも、思い切り余裕ぶって構えた。 「あー、仕方ねぇな」 渋々、といった体がまた憎らしい。 やる気無さげに手にした、漆黒の剣。 それが彼の愛剣のようだ。 「怪我したら、全力で手当させろよ」 「ほざけ。童貞、……っ」 言い終わらぬうち、地を蹴る。 姿勢を倒し前のめりに――、飛び込んだのは、相手の懐。 「っぶねェッ!?」 振るった切っ先が、奴の喉笛を掠る。 ほんの数ミリ。 声を上げて仰け反り、そのまま数回のバク転で距離を取られた。 「チッ……」 「うぉぉいッ!? 今完全に()りに来ただろっ!」 「当たり前だ」 ……僕はコイツと違って、余計な手加減はしない。 ギリ、と奥歯を噛み締める。 次に狙うのは。 「っ!」 再び正面突破……と、見せかけて右踵に重心を移す。 身体を翻し、背後へ。 大きく振り上げた刃を、その背に叩きつけ――。
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