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「なッ!?」
打ち付けた感触と、鈍い金属音。
刃と刃。
黒い剣が、僕の攻撃を受け止めていた。
「くっ」
一旦、後ろに飛び退く。
再び地を踏みしめ、奴の隙を伺う。
「なぁ、もうやめようぜ」
ウンザリとした声。
剣を構えることもなく、だらりと手が下がっている。
――こういうのカンに障るもんだな。
みるみるうちに、イラ立ちが心を占める。
冷静さを欠かせる作戦かと思えど、そんな様子は微塵もない。
「ふんっ、スピードは僕の方が上だな」
「あぁ、そうかもなァ。俺、いつもケルタに言われんだよ『もっと頑張れ』って――いぃ゙ッ!?」
語尾まで聞かない。
今度は無防備な足を狙う。
体勢低く。
滑り込むよう、切り込んだ。
「ぅ゙お!?」
「チッ」
一瞬早く、気取られる。
切っ先が切り裂いたのは、足でなく。泥のわずかに跳ねた、衣服である。
「だーかーらっ、人の話位聞けっつーの!」
「君こそ。闘いの最中に呑気してんじゃないぞ」
それとも。バカにして、手加減してるのか。
だとしたら許さない。
魔王の息子だとか、関係ない。この場で刺し違えても殺してやる。
「ななななっ、なんでそんな怒ってんだよ!」
「うるさいな。怒りじゃない、殺気だ」
「余計に悪いじゃねぇか!?」
もう一度、剣を構え直す。
距離を計り、思考を整える。
「僕と勝負しろ、エト」
「その勝負。勝ったら何か貰えんの?」
「強欲者め」
いつまでも、ふざけた態度しやがって。
次は、正面突破するか。
正々堂々と額を叩き切ってやるのも良い。
しかし体格や、腕力差は圧倒的。
するとやっぱり。
「死ねッ!」
「……ぅえぇぇぇ!?」
振りかぶり、滑るように駆けた。
「っ!」
案の定、ぞんざいに受けられた刃。
……刹那、それを捨て懐へ飛び込んだ。
「っげぶッ!?」
右ストレートが、バキバキに割れた腹筋にめり込む――。
回転を効かせ、放った拳。
多少、拳闘の心得もあって助かった。
後ろに倒れずとも、がくりと膝を付く身体。
湿った土の音と共に、剣が投げ出される。
「っぐ、やりや、がっ、たな」
「君が悪い」
「剣じゃねぇじゃん」
苦痛に呻いたのも一瞬。
すぐさま立ち上がり、眉間に皺を寄せた。
悔しいが、筋肉ダルマは伊達じゃないって事らしい。
己の剣を拾い、今度こそまともな構えを見せる奴に、内心で安堵した。
「仕方ねぇなぁ。勝ったら、1つ言うこときけよ」
「変な事ほざいたら、ぶち殺すぞ」
「ちょ、怖ぇ!」
――まだ、そっちが勝つ前提なのが腹立つ。
先程の拳が、ジクリと痛むのを隠して僕は大きく足を踏み出した。
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