7.決闘→剣の稽古

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■□▪▫■□▫▪■□▪▫■ 「で、そのようなお姿に?」 心配そうな、心底呆れ果てたようにも取れる声と表情。 その主は亜麻色の髪の、綺麗な人。 メイド妖精のフェナだ。 ……剣の稽古。という名の喧嘩。 それを終えて、僕らが城に戻った時。 早速、彼女に見つかった。 フェナはまず、怪我だらけで泥だらけの2人を見て卒倒しそうな顔をする。 「ルベルが悪いんだぜぇ、こいつ反則ばっかしやがるから」 「うるさい。実戦型、と言え」 確かに、最後の方なんてなりふり構わなくなった。 拳とそこらにある石も。 なんなら砂を投げつけて、目潰しはかってやったっけ。 「というか、君だって」 「お、俺はなーんにもやってねぇぞ!」 指を突き付けて糾弾した。 するとビクッと肩を大きく震わせて、狼狽えやがる。 「魔法、使っただろ」 「えー? し、知らねぇなぁ」 「とぼけてんじゃない」 魔法でなきゃ突然、土の剣闘場から巨大植物が生えるか! 細いが無数に(うごめ)く、(つる)。 それらが、まるで意志を持つように絡み付いてきたんだぞ。 「ルベルの反則に比べたら、可愛いもんだろ!」 「君のは、ズルいんだよ」 「それ、お前が言う!?」 「うるさいっ、デブ」 「ひでぇ! これ筋肉だっつーの」 「ちょーっと腹筋割れてるからって、良い気になるなよ」 「いででっ、痛てぇよ!? そこ怪我してんだからな!」 ムカつきがぶり返して、思い切りその腕やら腹を殴ってやる。 すると大声でギャーギャー喚きやがるから、さらに殴ってやろうと腕を振り上げた。 「やーめーろっての」 「い゙ッ!?」 軽く受けられただけ。 それなのに、鈍い痛みが拳に走る。 「まぁっ、大丈夫ですか!?」 慌てて駆け寄るフェナ。 僕の手に、優しく包み込むよう触れた。 「お、おいルベル」 狼狽えたエトを無視して、目の前の天使(妖精だけど)に弱々しく微笑みかける。 「フェナ。心配してくれるんだね優しい人――、願わくば、君のその美しい手で手当してくれないか?」 「まぁ、ルベル様ったら」 温かな笑みを浮かべた彼女。 形の良い、ピンクの唇で言葉を紡ぐ。 「エト様に、治して頂きましょうね」 「え゙?」 そっと手は離され、代わりに握られたのはゴツゴツとした男の手。 薄ら笑みを浮かべたエト。 僕はもう三回くらい、コイツをぶん殴りたくなった。 「ほら。俺が治してやるよ」 「要らんッ! なんで男に手を握られにゃならんのだ」 離せ、と藻掻くも力が入らない。 相当痛めてしまったのか。もしや、最初に腹に一発キメた時か。 「照れなくても、よろしいのですよ? あ、恥ずかしいのなら。私、向こう向きましょうか?」 「フェナ!? 」 そう言いながら、彼女はうっとりとこちらを見ている。 男2人が手を握り合っている、気色悪い場面をだ。 「うふふ。痴話喧嘩も愛し合ってる故ですわね」 「だから違うって」 「ほら、動くなよ」 また妙な勘違いしているフェナを、振り返ろうにもエトに腕を引かれる。 文句でも言ってやろうと、奴の方を向く。 「……」 瞼を閉じ、小さな声で呪文を唱える姿。 掴まれた手が、翠色の光をぼんやり放っている。 ――睫毛、長い。 最初に思ったのは、それだった。 太い眉に、厚い唇。 目を閉じていても、その表情は優しげだ。 「うん。終わり。ルベル?」 「えっ!? あ、あぁ」 開かれた瞳は、先程の光と同じ翠色。 まるでエメラルド、と言ったら陳腐だろうか。 「ルベル?」 「っ、な、なんでもない……!」 黙り込んだ僕を、怪訝に思ったのだろう。 顔を覗き込んできた。 まったく、顔だけは良いんだよな。コイツ。 あとは、全部気に入らないが。 「れ、礼は言わないぞッ」 だいたい、この筋肉ダルマが悪い。 そんな憎まれ口を叩く僕に、彼は。 「元気そうで、むしろ安心だぜ」 とおおらかに笑った。 その笑顔。 まるで笑ったように見える、犬みたいだ。 「君に心配されなくても、このくらい……って、さっさと自分も治しちまえよ。出来るんだろ」 魔王の息子は、チート設定ってか。 ふん、ムカつく。 「まーな、ってアレ?」 「まぁ、エト様の傷が!」 フェナとエトが同時に声を上げた。 「いつの間に治しましたの?」 「俺、まだ治してないぜ」 「でも」 どうやら、あれだけあった彼の身体の傷。 全て何も無かったように、消えているらしい。 無自覚で治癒するとは、いよいよチートか。 ……後で10発ほどぶん殴ってやろう。 首を捻るエトを横目に、僕は密かに決意した。 そこへ、大きな足音が響く――。
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