2.性奴隷→お買い上げ

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■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□ 「……」 「……」 ガタゴトと揺れる、馬車の中。 ――今、めちゃくちゃ気まずい。 互いがダンマリしてるからだ。 僕をお買い上げしたこの男、さっさと僕を引き取って市場を後にした。 慌てて後をついて行く僕に、一度だけ振り返って『これ着といてね』と掛けられたのが自身が羽織っていたマント。 真っ黒いカラスの羽のような色のそれは、見た目より軽い。 それでいて暖かかった。 「……」 窓の外を眺める男を観察する。 ガタイの良さは別として、とてと特殊な出で立ちだと思う。 服装からすると、なかなか身なりの良い感じ。 どこぞの貴族か、はたまた王族か。 歳は20代後半から30代。 短い黒髪が、風に靡いている。 ――ま、まぁ。なかなか良い男風情だ。 前世の僕には負けるけどな! 「ん? 寒いかな」 「えっ、あ、いえ、別に」 突然こっち見た。 すごい勢いで目を逸らしてしまう。 逆に失礼だったかと思うが、何故か怒るわけでもなく楽しそうに話しかけてきた。 「名前まだ聞いてなかったね」 「な、名前? 」 一瞬迷った。 名前を言うべきか。 ……奴隷は、この首輪をつけた瞬間から人として扱われなくなる。 言ってみれば家畜やペットと同じ。 名前だって、今までのそれを捨てなければならないんだ。 だから僕のルベル・カントールを名乗って良いものか。 「私は、君の名前を知りたいんだ」 「っ……ルベル、です」 名前だけにした。 苗字(ファミリーネーム)は一応、やめておく。 これも、少し前には家に沢山奴隷がいたから分かることだ。 もっとも。僕自分がその立場になるなんて、思ってもみなかったが。 「ルベルか。素敵な名前だね」 「ど、どうも」 「私はレクス。出来れば、ご主人様なんて呼ばないで欲しいな。良いかい?」 「あ、はぁ……レクス、様?」 なんだた変な人だ。 奴隷に、ご主人様と呼ばせない。なんて。 彼は僕の怪訝な顔に、笑顔で返す。 「様は要らないから」 「レクス……さん?」 「うーん、まぁいいか。よろしくね、ルベル君」 「よ、よろしくお願いします」 気さくな人柄らしい。 そう思えば、この化け物じみたバキバキの肉体も、爽やかなボディビルダーのお兄さんに……見えねぇぇッ! どう足掻いても、戦闘能力が数百万超のバトル漫画主人公にしか見えん。 なんなんだこいつッ、怖すぎる! てか、こっち見んなァァァァッ!! 「な、な、何か!?」 「うん? いや、可愛い子だなぁと」 「え、あー……ど、ども」 「ふふふ」 今度はこっちを凝視しやがる。 なんかもう、舐め回す勢いで。 「君ってさ。性奴隷なんだよねぇ」 「へ?」 突然、レクスっていう男が言い出した。 性奴隷――、あぁそうだ。僕は性奴隷か。 「しかもまだ処女」 「当たり前でしょう! 男なんだからッ」 古い人間だと言われても構わない。 僕にとって恋愛やセックスは、女と男でするものだ。 男同士でするなんて、天地がひっくり返ってもありえない! そんな僕がよりにもよって、男娼になんて。 「ふふ、まだ若いんだねぇ。楽しみだな」 「え゙!?」 わ、忘れてた。 こいつ、僕の事を買ったんだ……と言うことは。 「さ。そろそろ屋敷に着くよ」 ニッコリ微笑まる。 僕は見事な間抜け面で頷いたが、その心は絶望でいっぱいだった――。
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