3.お買い上げ→黄金の右腕がうなる

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■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪ ……中も、城。 当たり前か。これで和室とかだったら、違和感でドン引きだもん。 「これ魔城?」 「あ、分かっちゃった。凄い凄い」 思わずツッコミ入れたら、のんびりと肯定された。魔城、つまりここは。 「魔界だよ。そして私は魔王、改めてよろしくね!」 「えっ」 ――ま、魔王だと!? 僕は魔界にお買い上げされてしまったのか! 事態の大事さに、両足から力が抜けるのを感じた。 「おっと! 大丈夫かい?」 「っ、ぁ、すいません……」 ヘナヘナとへたり込む僕を、サッと抱き起こしてくれる。 まぁこいつが原因なんだが。 「少し疲れちゃったかなぁ。部屋で休もうか」 「や、休む?」 なんだろう、すごく不穏な単語出てきた。 つまりそれって。 いわゆる 『ご休憩』の意味なんじゃ――。 「い、いやいやいやッ。あ、あのっ、ま、まだ気持ちの準備が」 「準備?」 そりゃあ確かに性奴隷の、心理状態なんかお構い無しかもしれないけどさ。 「僕っ、初めて……っ、だから」 やばい。涙出てきた。 怖い、すげぇ怖い。 19にもなって、大の男が泣くなんてカッコ悪いけどさ。 これからこんな大男に、女みたいに抱かれるなんて。 怖がるなって方が無理な話だ。暴れ出さないだけ褒めて欲しい。 「えぇっ!? ちょ、待っ……えぇぇぇ」 突然泣き出した僕に慌てだしたのはレクスで、オロオロとなだめ始める。 「わ、私は何か酷いことをしちゃったのかな……ご、ごめんね? ええっと……あー、困ったなぁ」 下がり眉が良く似合う。 それでいて、男前なんだからやっぱりムカつく。同じ男として。 わんわん泣きながら、頭のどこかでは冷静だった。 だからこそ、自分の身の上がどうしても納得出来なかったのだ。 「あぁ、もう。どうしよ……」 僕を抱きしめて、ほとほと困り果てたといった風情で彼が呟いた時―――。 「ハッ、奴隷に泣かれてビビるなんてなァ! 情けないんじゃあないか?」 バカにしたような声と言葉。 それが、城の玄関広間(サルーン)に響き渡った。 「れ、レミエル。帰ってたのかい!?」 「ふんっ、なんだその間抜け面は。妻が家にいて、何か問題でもあるのか?」 更に焦った表情のレクス。 それに被せるたのは、これまたえらく屈強な――女? ちょっと待て、見た目は完全に男だ。 レクスよりは華奢であるが、背の高い筋肉のついた身体。 金髪は長く、気の強そうな猫目の美人。 「しょ、紹介するよ。この子、ルベル君。それと、このこの人が、ええっと、僕の妻で」 「レミエルだ」 レミエル、やっぱり『妻』なのか。 すると女? だとしたら、僕はこんな筋骨隆々な女を見たことないな。 大きく前の空いた服からは、おっぱいというより雄っぱいが見えている。 「ン? 何ジロジロ見てる。貴様、まだ奴隷としては半人前……いや、それ以下だな」 「あ、す、すいませ、ん」 凄い威圧だ。 レクスとは真反対。 そして、彼はすっかり恐妻家よろしく、デカい身体を縮こませている。 「レクス、貴様もいい根性しているよなァ? 妻の前で堂々と浮気か。それとも、奴隷は浮気にならんとほざくか……っ、おい。こいつ性奴隷じゃあないかッ!! 見損なったぞ、離婚だ離婚! 実家に帰らせてもらうッ」 「ま、待ってよ! レミエル」 「えぇいっ、言い訳は聞かん! この変態魔王がッ」 「変態も魔王も認めるけど、浮気じゃないってば……」 僕の身体を離したレクスは、大汗かいて奥方に言い訳並べている。 対してレミエルは猫目を更に吊り上げて、たいそうお怒りだ。 まぁ当たり前だよな。
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