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第2話
「おはよう‥ 」
「おはよう」
俺がこの村に来て二週間が過ぎた。俺は長老の家に居候させて貰うことにした。怪我もある程度、良くなり普段の生活に支障が無くなった。
だが記憶は一向に戻らない。しかし俺は毎朝、リシャの可愛い笑顔を見て一日の始まりという平穏な日常に浸っていた。
俺は本当に戦争とは無縁の村に溶け込んでしまい、国の混乱を忘れかけていた。
そして親身になって世話をしてくれる彼女に俺はいつか恩返しをしたいと思っている。だが気になるのは、彼女の経歴だ。
俺以外の人には、心を閉じているように思える。まあ俺に対しても口数は少なくあまり感情を表さない。俺は意を決してあることを聞いた。
「そう言えばリシャはどうしてあまり話してくれないの? 」
「‥ ごめん‥ 」
「こっちこそ変なこと聞いてすまない」
リシャは俯きながらユックリと箸をテーブルに置いて無言になってしまい。時が停止したような沈黙を過ごすこととなった。
すると長老が、気を遣って俺を別室に呼んで神妙な面持ちであることを語り出した。
「実はあの子、幼いときに父親を目の前で殺されたんじゃよ」
俺は言葉を失った。憲兵だった父親は軍からスパイ容疑である人物に処刑された。実の娘でもある母親も後を追うように病気で亡くなり、それ以降、人を信じることができず、祖父以外、心を閉ざしてしまったそうだ。
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