路地裏の迷子

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路地裏の迷子

毎日同じことの繰り返し。 自分を見失って、それでも仕事に行かなきゃいけない。 わたしは会社からの帰り道を歩きながら、ため息を吐いた。就職3年目ですっかり着慣れたグレーのスーツのジャケットのボタンを外し、ヒールをコツコツと鳴らしながら歩いて行く。夏物のパンツスーツとはいえ、もう少し涼しい格好をしたいものだ。 「……あれ、ここどこだろう」 気分転換をしようと、いつもと違う道を選んだのが間違っていた。そもそも方向音痴のわたしに、冒険なんて早すぎたのだ。 わたしは焦げ茶色のワンレングスの髪をかき上げて、しっかりとした視界を確保した。 さっきまでは、賑やかな商店街通りを歩いていた。今は閑散とした路地裏を歩いている。 「どうやって戻ればいいんだろ」 独り言を溢しながら進んで行く。来た道を戻ろうにも、どこから来たのかさえ分からない。無意識とは恐ろしいものだ。 「ん?」 不意に賑やかな声が聞こえた。次の曲がり角の方からだ。わたしは小走りで曲がり角まで向かうと、塀に隠れるようにして左側を覗き込んだ。賑やかと言っても、不良とかだと絡まれたら厄介だし。用心することに越したことはない。 しかし、それは杞憂に終わった。 「わぁぉ……」 閑散とした路地裏の続きは、賑やかな道に繋がっていた。 商店街に戻ってこられたのかと思ったが、そうではないらしい。道の先には石灯篭がずらりと並び、行き先を示している。商店街にはそんなものはないし……。 わたしは、石灯篭の温かい明かりと温かい笑い声に導かれるようにして、隠れていた塀から体を出した。
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