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「前に私たちが織姫と彦星に似てるって言ったの、覚えてる?」
「うん、覚えてる」
「あれ、撤回する。だって、会えないからってめそめそ泣いちゃってさ、そのせいで地上は雨続きでしょ。ちょっとばかり、迷惑じゃない? 私は会えなくたって泣かない」
夏彦は夏織の顔を覗き込み、目尻をそっと撫でた。
「でも、夏織泣いてたじゃん」
「それは、夏彦に何かあったんじゃないかって心配になって……」
「ごめん、心配かけて。乗った電車が止まっちゃってさ。スマホも充電切れちゃって連絡できないし、本当にどうしようかと思ったよ」
「うん、それでも来てくれて、ありがとう」
「夏織のいるところが、俺の帰る場所だから」
夏織の顔を両手で包み込み、唇を近づけたところで、腹の虫がぐうと鳴いた。「ムードも何もない」と夏織は笑って立ち上がると、テーブルの上のご飯を温めなおした。
「そういえば、さっきのプラネタリウムって」
「あ、俺の写真が使われてて。もらったんだ」
コロッケを口いっぱいに頬張ったまま喋る夏彦を見て、夏織はくすりと笑った。
厚い雲の上で、星がひとつ流れた。
またひとつ、誰かの願いが叶ったのかもしれない。
おしまい
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