願いを叶えて

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「いい写真、撮れそうですか?」  あらかたセッティングが終わったように見えたところで、夏織は声をかける。その声色には、少し苛立ちが含まれていた。夏彦はそれには気づかないようで、ファインダーを覗いたまま「まあまあかな」と返事をした。 「夏織、撮ってみる?」  夏彦は振り返って夏織に手招きをした。夏織はむくれ顔のまま近寄る。夏織の手を掴むと、夏彦はその手にレリーズを握らせた。 「これでシャッター切れるから。押してみて」  夏織がそのボタンを押すと、シャッター音が静かに鳴った。夏彦は小さな液晶に撮影した写真を表示させた。 「夏織が撮った写真だよ」 「すごい、都会でもこんなに星が写せるのね」 「晴れてて、明かりが少ないところなら割とね。これでも見えてない星はたくさんあるけど」  夏彦はそう話しながらてきぱきと機材を片付け始めていた。 「ごめん、俺、もう帰らないといけないんだ。写真送るから、連絡先教えてくれない?」  夏織は夏彦の背中を見つめながら、取り出したスマートフォンをぎゅっと握りしめた。 「お忙しいんですね」 「まあ、夜しか仕事できないからね」  リュックサックのファスナーを閉めると、夏彦は夏織のほうに体を向けた。骨張った指が顔にかかる髪をそっと除けるように触れると、夏織はくすぐったそうに目を細めた。 「もう少し、一緒にいれたらよかったんだけどな」  お互いの連絡先を交換した後、夏彦は夏織の手を握って歩き始める。等間隔の明かりがふたりの影を地面に落としていた。  帰らなければいけないと言ったわりに、特別急ぐようでもなく、夏彦は電車で帰ると言った夏織を駅まで送り届けた。笑顔で手を振った夏彦は「今夜は難しいけど、絶対連絡するから」と言ったのだった。
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