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その日から夏織は何度もスマートフォンを眺めては溜息をつくようになったのだが、夏彦から連絡が来たのは三日ほど経った日だった。送られてきたのは写真だけで、メッセージは何もない。夏織はまた大きな溜息をついた。
「あれあれ? 溜息なんかついちゃって。この前の彼とうまくいってないの?」
おどけたように声をかけてきた奈緒子をちらりと見て、夏織は表情を曇らせる。
「あの日は公園で写真撮っただけで別れて、それから連絡来たのが今日よ。しかも写真だけ送ってきて。ちょっとひどいと思わない?」
「でも夏織、すっかり夏彦さんに惚れてるんだ」
「そうみたい。でも、どうせ私の片思いなのよ」
「そうかなあ。夏彦さんが合コンで笑ったのは初めてだって、二次会では結構話題になってたのよ。だから、気に入られていると思っていいんじゃない?」
夏織は壁紙にしていた写真を頼りに夏彦のSNSのアカウントを見つけ、密かにチェックするようになっていた。それは撮影した星空の写真をただアップするだけのもののようで、夏彦がその日どこで何をしていたのか、何を思っていたのかがわかるようなものではなかった。それでも夏織は、夜にアップロードされるその写真を見ずにはいられなかった。
【ありがとうございます。もっと夏彦さんの写真見たいです。できれば一番最初に】
【わかった】
夏織は何度もその文章を書いては消し、最終的に投げやりにメッセージを送った。すぐに返ってきたそのメッセージを見て、僅かに頬を緩ませる。たった四文字だというのに、それは夏織を喜ばせるには充分すぎるものだった。
その日から、夏彦はSNSにアップロードする前の写真を夏織に送ってくるようになった。一言、どこで撮影したものなのかのメッセージを添えて。その後SNSにアップロードされた写真のほうには、相変わらず情報はない。夏織はそれがふたりだけの秘密のように思えて、夏彦への想いをさらに募らせていくのだった。
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