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一か月ぶりの再会にただでさえ緊張しているというのに、格式の高い店に夏織は気後れしていた。
「久しぶり、だね」
「そうですね。いつも写真楽しみにしてました。今日は撮らなくて大丈夫なんですか?」
「ああ、今日は撮らない。そのつもりでカメラも置いてきた」
「そうなんですか」
会話はそこで途切れてしまう。やがて、カチャカチャと食器と金属がぶつかる音以外はしなくなった。夏織は無言でナイフとフォークを動かす。その様子を夏彦は静かに見つめていた。
「夏織が俺の写真好きだって言ってくれたのがすごく嬉しくてさ。趣味の延長みたいだったこの仕事にちょっと自信が持てたんだ」
静寂を破ったのは夏彦だった。夏織はナイフとフォークを置いて、少し頬を緩めた。
「俺、この一か月でわかったと思うけどメールとか文章打つのって苦手でさ。休みも不定期でこうやって会ったりとかも頻繁にできそうにないんだけど」
夏織はその後に続く言葉を待って、唾をごくりと飲み込んだ。
「俺、夏織と付き合いたいなって思ってる」
「……私でいいんですか?」
「夏織がいいんだけど。寧ろ、俺でいいの?」
夏彦は顔をくしゃくしゃにして笑う。夏織もつられたように顔を綻ばせた。
「私、毎日夏彦さんのこと考えてました。写真が送られてきたら私も空を見上げて、どこかで夏彦さんが同じ空を見ていたんだと思ったら、なんだか嬉しくなっちゃう。そのぐらい、好き、ですよ」
「夏織は可愛いな。よかった、今日言えて。次いつ会えるかわかんないからさ。それで他の男に取られたら、俺立ち直れなかったかも」
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