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夏彦は照れたように鼻の下を擦った。その一方で夏織は表情を曇らせた。
「明日もどこか行くんですか?」
「明日はね、長野に行くよ。ちょうど七夕だから、天の川をまた撮りに行こうと思って」
「私も一緒に行きたい。……って言ったら困る?」
夏彦は「うーん」と眉尻を下げた。その表情を見て、夏織は下唇を噛む。
「やっぱり、迷惑ですよね。ごめんなさい、忘れてください」
「迷惑ではないよ。車で四時間くらいかけて行くからさ、しんどくない?」
夏織は何度も首を横に振った。
「全然平気。だって少なくとも四時間は夏彦さんと一緒にいられるってことでしょう? そんなの、しんどいわけない」
「夏織……今日、連れて帰ってもいい?」
夏彦に見つめられて、夏織は暫し硬直した。数秒後、頬を赤く染めた夏織は、控えめに頷いた。
「ごめん、それは冗談。でも、もう少し一緒にいたいのは本当。っていうか俺家ないからさ、寧ろ夏織が俺のこと連れて帰ってよ」
「え? なにそれ。ふふふ、本当に連れて帰っちゃいますよ、私」
「いいよ。ただし返品不可だから」
ふたりは笑い合った。お互いの知らないことについて訊き、知ってほしいことを話した。店を出て、夏織の家に向かう道でもふたりは話し続けた。堰き止められていたものが溢れ出すように、とめどなく。
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