貴方のいない10年

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お父さん。 今年、お兄ちゃんは受験生よ。 高校受験。早いわね。 あんなに可愛かった子が、もう私のことを上から見てるの。私、見上げて話すのよ。 お父さんと話してるみたい。見上げて話すだなんて。ずっと屈んで話してたのに、いつの間にか。 時が経つのは早いわね。 そうそう。あの甘えたちゃんの弟も、私の背を越したのよ。この前あら?と思って背比べしたら、あの子の方が大きいの。 お兄ちゃんがきちんとジャッチしてくれたわ。 納得いかなくて鏡の前で確認したのだけれど。 私ってば相変わらず負けず嫌いね。 子供達にもちゃんと受け継がれていると思うわ。 お父さんなら笑ってくれるでしょう? お父さん。あの日、貴方を失った日。 ちゃんと立って、しっかりしなくちゃと思ったのは、小さなあの子たちがいたからよ。 小さくて、お父さんがいなくなった意味すら分からず、私と遊ぶあの子達。 もう二度と会えないことを、なんて説明すればいいか悩んだ。最後のお別れだなんて、私だって理解したくないんだもの。 分かっているのか、気を使っているのか、私を困らすことなく、いい子で過ごすあの子達を見て、しっかりしなくてはと心に誓った。 1人でやっていくのは不安で仕方がなかったけれど、お父さんの忘形見ですものね。 私がしっかり育てるから、お父さんはゆっくりしててください。見えないけれど、見守ってくれていたら嬉しいわ。 まだまだこれから大変なことが待っているでしょうけど、これまでやってこれたんだもの。これからだってなんとかなるわ。そうでしょう? お父さん。 貴方ほどの人がいなくて、私まだ独身よ。私だってまだ30代半ばなのよ。まだまだいけるわ! 10年の間に何もなかったわけじゃないけれど、貴方と比べるとダメね。 貴方は素晴らしい人だったから。 だから。置いていかないでほしかったわ。 会ったら文句でも言ってやりたいけれど、そういえば私たち喧嘩らしい喧嘩なんてしたことないんじゃない? お父さんが私を甘やかすから、喧嘩にならなかったものね。我がまま放題だったのに、本当によく付き合ってくれたものよね。 本当にまた会えたなら…。 そうね。ただただ抱きしめて欲しいわ。 私が満足するまで。ずっとよ。 それで許してあげる。 だからきっと…。いつかきっと…。 お父さん。貴方に逢いたい。大好きよ。 〈end〉
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