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お父さん。
今年、お兄ちゃんは受験生よ。
高校受験。早いわね。
あんなに可愛かった子が、もう私のことを上から見てるの。私、見上げて話すのよ。
お父さんと話してるみたい。見上げて話すだなんて。ずっと屈んで話してたのに、いつの間にか。
時が経つのは早いわね。
そうそう。あの甘えたちゃんの弟も、私の背を越したのよ。この前あら?と思って背比べしたら、あの子の方が大きいの。
お兄ちゃんがきちんとジャッチしてくれたわ。
納得いかなくて鏡の前で確認したのだけれど。
私ってば相変わらず負けず嫌いね。
子供達にもちゃんと受け継がれていると思うわ。
お父さんなら笑ってくれるでしょう?
お父さん。あの日、貴方を失った日。
ちゃんと立って、しっかりしなくちゃと思ったのは、小さなあの子たちがいたからよ。
小さくて、お父さんがいなくなった意味すら分からず、私と遊ぶあの子達。
もう二度と会えないことを、なんて説明すればいいか悩んだ。最後のお別れだなんて、私だって理解したくないんだもの。
分かっているのか、気を使っているのか、私を困らすことなく、いい子で過ごすあの子達を見て、しっかりしなくてはと心に誓った。
1人でやっていくのは不安で仕方がなかったけれど、お父さんの忘形見ですものね。
私がしっかり育てるから、お父さんはゆっくりしててください。見えないけれど、見守ってくれていたら嬉しいわ。
まだまだこれから大変なことが待っているでしょうけど、これまでやってこれたんだもの。これからだってなんとかなるわ。そうでしょう?
お父さん。
貴方ほどの人がいなくて、私まだ独身よ。私だってまだ30代半ばなのよ。まだまだいけるわ!
10年の間に何もなかったわけじゃないけれど、貴方と比べるとダメね。
貴方は素晴らしい人だったから。
だから。置いていかないでほしかったわ。
会ったら文句でも言ってやりたいけれど、そういえば私たち喧嘩らしい喧嘩なんてしたことないんじゃない?
お父さんが私を甘やかすから、喧嘩にならなかったものね。我がまま放題だったのに、本当によく付き合ってくれたものよね。
本当にまた会えたなら…。
そうね。ただただ抱きしめて欲しいわ。
私が満足するまで。ずっとよ。
それで許してあげる。
だからきっと…。いつかきっと…。
お父さん。貴方に逢いたい。大好きよ。
〈end〉
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