自分の一番の理解者は自分

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 水中から出て膝をつき、僕は咳き込んだ。水を多く吐き出し、目には涙がたまり、鼻水も出ている。しかし、不思議と気分は悪くはなかった。  僕のほおをなでるようにして、風が通り過ぎていった。顔をあげるとそこは明るかった。周りには木が生い茂っていて、色鮮やかな花が咲いており、鳥が鳴いていた。  いつのまにか濁っていた水も透き通っている。水面にはいくつもの青葉が優雅に浮いていた。  その中に一枚、その場に似合わない、消炭色でボロボロになった枯葉が浮いていた。僕は一歩ずつ前に進み、枯葉を拾った。  僕さ、気づいたんだ。自分のしたいことができたときや願いが叶ったとき、仮にそれを幸せというなら、きっとそれはつらいことの先にあるんじゃないかって。つらいことにぶつかって、立ち止まって、悩んで、泣いたとしても、決して背中を向けたり、目を背けなければ、きっと誰でも幸せになれるんじゃないかって、そう思ったんだ。  ――正しいかどうかは、わからない。ただ、私が思う幸せってやつも、きっとそうだと思っている。だから、一人間の私からすれば、それは正解だと思う。せいぜい、これが嘘だ、嘘つきって呼ばれないようにな。  大丈夫さ。だってこんなにも世界は明るいんだよ? 暗くしているのは自分だってわかったから、もう大丈夫、きっと。  ――そうか、ならもうお別れだ。そんな悲しそうな顔をするな、大丈夫さ。だって私はいま幸せなんだ。ならお前だってそのはずさ。だって私はお前で。  僕はお前なんだから。  僕は枯葉を、青葉の中へ放り投げた。  波間にたゆたう枯葉は、他の葉とは色も状態も違っていたが、鮮やかに、まるでパズルのピースのように、その中に収まっていた。  静かに水になるかのように、ゆっくりと溶けていった。
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