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――また、諦めるのか。
だって仕方がないじゃないか。水の中で息ができなければどうすることもできない。もう結果を受け入れる以外、選択肢はない。
だから僕は諦めたんじゃなくて、諦めさせられたんだ。あのときとは違う。
――また、逃げるのか。
逃げる、逃げないは関係ない。
――また、投げ出すのか。
投げ出す、投げ出さないの問題じゃない。
――お前は悔しくないのか?
悔しいよ。悔しいけど、無理なんだ。僕じゃ、きっとダメなんだ。僕の世界は濁っていて、僕には勇気がなくて、嘘つきで、弱くて……。世界は僕を嫌っているんだ。
――そうだな。たしかにお前には勇気がなくて、大嘘つきで、弱い。だが一つだけ間違っている。世界がお前を嫌っているのではなく、お前が世界を嫌っているのではないのか。
お前に何がわかるんだ。僕の中にひっそりといて、都合のいいときだけ外に出てきて、上から物を言って、追い詰めて。
お前がどんなことをしても、実際見られるのは僕なんだ。お前みたいなやつがいるから、僕は何もできないんだ。
――またか。そうやって、また。もう聞き飽きた。うんざりだ。
また上からか。何もかもわかったようなことを言って。お前は僕じゃない。
――いいや、私はお前で、お前は私だ。
この大嘘つき。僕の中から出ていけ。全部お前のせいだ。もう、何もかも消えてしまえ。
――では聞こう。お前は、私が消えれば、もう諦めずに、逃げずに、投げ出さずになるのか。お前は何か理由を探している。自分ができないってことがもっともになる理由を。
探してなんかいない。
――いいや、探している。その証拠に、お前今、息をしているじゃないか。
気づけば僕は息をしていた。いや、息をしているのかどうかはわからない。不思議な感覚だった。たしかに水の中にいるのに、苦しくもなんともなかった。
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