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タクシーはお寺の門前に停まった。
降りて門を中に入って行くと、広いお堂が見えてきた。
門から中は自然に囲まれた場所で、静かで厳かに感じた。
右手の方に車が停めてあるのが見えて、駐車場かなと思いながら真っ直ぐに進んだ。
右手に寺務所らしき建物があり、御用の方は、とインターホンがあったのでそれを押す。
『はい?』
「あの、七角と言います。宿坊体験の…。」
『はい!直ぐ参りますね。』
女性の声がして、通話が切れると1分足らずでお坊さんが現れた。
40歳位に見えたけど落ち着いているし、お坊さんの服装だからもしかしたらもっと若かもしれないと考えながらお辞儀をした。
簡単に本堂と周りの案内と、明日からの説明を受けてから、本堂とそこから続く通路を渡り、宿泊する部屋に案内された。
渡り廊下の様な所を通り、奥の建物に入ると孤立した小さなお寺さんだ。
「このお部屋をお一人ずつお使い下さい。」
部屋は四畳の狭い作りで、お布団が隅に綺麗に畳んで置かれていて、テレビも当然ないしテーブルもない。
窓もないし何もない部屋だ。
ただ、障子を開けて廊下を通り越して見る中庭は絵の様で美しかった。
何時間見ていても飽きないと思えた。
「これは…かなり退屈じゃない?」
お坊さんが居なくなると、隣から廊下に出て来て香里が言った。
「ねぇ、あそこ家あるよね?」
庭を眺めていて反対側に家があると気付いた。
「あぁ、あるね?三日間が体験だから、あんまり自由には動けない感じ?お夕飯まで休憩して良いって言われたけど…。」
「まぁ、一応、体験だしね?」
二人でお寺の空気に飲まれて少し緊張し始めていた。
一人一部屋を与えられたが、何となく怖くて、同じ部屋で過ごして、夜一緒に寝ようと相談していた。
同じ建物での夕食は、住職も一緒で挨拶をしてくれた。
「ようこそ、蓮承寺へ。住職を務めます、蓮上宗健と申します。これは副住職で息子の貴志です。お二人のお世話は息子が致します。
修行体験という事で、食事は殺生禁止のメニューになりますが、無理そうでしたら言って下さいね。あくまでお寺の修行ってこんな風かという興味を持って頂く目的の物で、無理は良くないですからね。あまり硬くならず…礼儀だけは気を付けて下さいね。仏様が常にいらっしゃいますから。」
笑顔で言われて少し緊張は解けたが、物音を出来るだけ出さない様に食事をしてください、と言われてさらに緊張する。
お夕飯は雑穀米にお味噌汁、わかめと人参。
漬物二種盛り合わせと、蓮根、大根、かぼちゃの煮物。
ごま豆腐に、オクラの味噌和えだった。
(確かにダイエットかも…。)
と思って食べたが味はすごく美味しかった。
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