頼りにならない四将軍

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頼りにならない四将軍

「ああ、とうとう親父が死んじまった……。どうしよう、どうしよう」  慌ただしい城内を、俺は不安に溺れながらさまよっていた。  行き交う魔人たちが不審なものを見る目を向けてくるが、それを気にする余裕はない。  何しろ、魔王になるのである。  もちろんこれは昔から決まっていたことであり、心構えはしてきたのだが、やはりその時を迎えると慌ててしまう。  しかも、心構えのみならず、代替わりの準備もできていない。  魔王の一人息子である俺は、ずっと”魔王学”という授業を受けてきたのだが、教師がグラマラスなおねいさんだったせいで、授業の内容は全然覚えていない。  まずは何をすればいいのか。  それくらいは思い出したいのだが、浮かんでくるのは谷間だけ。 「マジでどうしよう……。とりあえず、ラファエルに相談してみるか」    魔界四将軍の一人、魔界随一の切れ者として名を馳せるラファエルの執務室に向かう。 「ラファエ」 「私は忙しいんです。お帰りください」    仮にも新魔王をバッサリだった。  俺はそれ以上何も言わずに執務室のドアを閉める。  普段はいい人間であるラファエルだが、仕事量が膨大なときには”魔王モード”に変化するのだ。  きっと魔王の代替わりの手続きや、親父の国葬の準備などで忙しいのだろう。 「ラファエルはだめか……。じゃあサンドラ姉さんにしよう」     魔王城内の四将軍たちの部屋は、それぞれ離れている。  まとめてあれば楽なのだが、近いと揉め事が起こる可能性が高いのだ。 「サンドラね……」  これまた魔界四将軍の一人、サンドラ姉さんの部屋。  俺はその扉を開いて中を覗き込み、異様な気配に息を呑んだ。  まるで、地獄の果てだ。  そんな感想を持つほどのおどろおどろしい雰囲気のもとは、部屋の主である一人の、元、美女であった。    もともと暗いほうだが、今は魔王という称号を譲り渡したいほど異様な雰囲気を放っている彼女に、俺は何も言うことなく扉を閉めた。  そういえばサンドラ姉さんは、親父にベタ惚れしていた。  親父に請われて、魔界四将軍になったほどだ。  その親父は死んでしまったが、魔界四将軍はしばらく三将軍になるのだろうか。  永久にそうならなければいいのだが。  魔界の大将軍を一人減らした魔王、として歴史に名を残したくはない。    俺は親父とあまり接点がなかったので、死んだと聞いてもそう悲しくないのだが、私的にも親しかった彼女は違うのだろう。  満足いくまで泣いてくれればいい。  あの魔王状態がずっと続くのは困るが。
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