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泊まりに行っていい?
【side タカ】
お泊り会。
高校生にもなって何やってるんだろうという感じもするけれど、みんなで集まって夜中まで騒ぐのは面白い。
今日は親が旅行でいないというキヨの家のリビングを借りて、4枚しかない布団を部屋いっぱいに敷いて、お菓子やジュースを広げて騒ぐ。
どうせ雑魚寝だ。
布団なんて、足りなくたって構わない。
「よっし、俺が王様な!」
そして、今やってるのは総勢6人の王様ゲーム。
最初はジュースの一気飲みやモノマネとかの些細な命令だったのに、段々みんなハイになってきて。
「最下位とブービーがキス!」
とうとう出てしまった、この命令。
上がる歓声と、ブーイング。
男ばかりの王様ゲームで出すなんて、嫌がらせ以外の何物でもない。
「最下位とブービー……6番と5番?」
「誰だー?」
「……オレ、6番」
最下位を引いたのは、オレ。
「5」
ブービーは……キヨ。
札を掲げる顔は、不機嫌そう。
「よかったじゃねーか、仲良い者どうしで」
「そーそー。お前らなら許される!」
「どういう判断基準だよッ」
「あははははっ」
喜びよりも、まず驚いて固まるオレは、運が良かったのか悪かったのか。
そんなオレを尻目に、みんなは無邪気に騒いでる。
「ほら、とっととやっちまおうぜ、タカ」
「え、あ、うん」
呆れ返って促され、オレは慌てて頷き、キヨの方を向いた。
どうしよう。ドキドキしてきた。
正直、他の人とキスするより大変かもしれない。
自分の気持ちを、気付かれないようにするのは。
「ぶつけるだけじゃ、面白くねーだろーが!」
「そうそう。ぶちゅーっと、ハードにいこうぜ、ハードに!」
「ディープいけぇ~!」
「ディープっ、ディープッ!!」
拍手と煽り。
みんな、ホントに素面だよな?
「あーもー。お前らうるせーッ! やれば良いんだろ、やれば!」
「え、ちょッ……キヨ!!?」
場に酔って、自棄になったキヨが、オレに伸し掛かってくる。
逃げられないように腰を抱かれて、頭を固定されて。
「……ンッ……ふ、ぁっ……んんっ」
呼吸の合間を縫って、するりと入り込む舌。
濡れて柔らかい独特の感触を持ったそれは、オレの口内を縦横無尽に蹂躙する。
長く深い、キス。
呼吸もできないくらい激しくて、オレは息苦しさを訴えてキヨの背を叩く。
「……は、ぁっ」
気付いたキヨにようやく解放してもらって身を離すと、罰の悪そうなキヨの顔が視界いっぱいに広がった。
「ごめん、タカ。大丈夫か?」
「……なんで、こんなに、慣れてるんだよ」
オレはまだ呼吸が整わないのに、キヨは涼しい顔。
なんか口惜しい。
「キヨくん、欲求不満かい?」
「ばっ……ちげーよ!」
「あははははっ」
友達の茶々で誤魔化されてしまったけれど、きっとキヨは女の人との経験も豊富なんだろう。
何度か、そういう噂を聞いたことがある。
……男としても、なんだか口惜しいなぁ。
「それに比べて、タカくんは初々しくて可愛いネェ」
「どーせオレは童貞だよ! いいんだよ、まだ高校生なんだから!」
「おっ。開き直ったゾ」
「キヨ、報復だ!」
「おうッ」
友達にからかわれ、イイコイイコされて、オレはキヨを伴って枕投げの報復に出たのだった。
***
「あー、クソッ。もう、絶対あいつらは泊めねぇぞ」
翌日。ペットボトルやお菓子の屑が広がる惨状を片付けた後。
駅まで送ってもらいながら、キヨは隣でまだ文句を言っていた。
オレは、そんな情けないキヨが楽しくて……可愛くて、笑ってしまう。
「薄情だよな」
「全くだぜ。ふつー、片付けぐらいしてくだろーに」
頷けば息を荒くするキヨに、オレはさらに笑みが深くなる。
今日、みんなは昼に起きると早々に帰っていって、結局残って後片付けしたのはオレとキヨだけだった。
片付けはめんどくさくて大変だったけど、ずっとキヨと一緒にいられたのはよかったかな。
それに。
「楽しかったよ」
「あー……まぁ、な」
オレの言葉に苦い顔をするのは、王様ゲームを思い出したからだろうか。
まぁ、男同士でキス……それも、ディープだから、嫌な記憶でも仕方ない。
気持ちよかったと……嬉しく思うオレのほうが、おかしいんだ、きっと。
「ごめんな、タカ。気持ち悪かっただろ、アレ」
ほら、ね。
だけど、気持ちよかったなんて言えないから、オレは笑って誤魔化す。
「キスのこと? 別に、平気だよ」
「調子に乗りすぎた。悪ィ」
「いいって」
我が儘だとはわかっているけれど……謝らないで欲しい。
じゃないと、自分が可哀想に思えてくるから。
謝らないで。
「あのさ、キヨ」
駅は目の前。笑ってお別れしたい。
明日、学校であった時のためにも。
これからのためにも。
「また、泊まりに行っていい?」
笑顔で聞いたら、苦笑いが返ってくる。
「今度は、お前だけで来いよ。
もう、あんな片付けはごめんだ」
嬉しい言葉。
ソウイウ意図はないとわかっていても、緩んでしまう笑顔。
キヨもつられて笑ってくれるから、嬉しい。
「りょーかい。
それじゃ、またな」
「あぁ。気をつけて帰れよ」
「うん。ありがと」
手を振ってホームへ向かうオレに、キヨは大きく手を振ってくれた。
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