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俺はあいつが好き
【side キヨ】
「……ハ?」
俺は、言われたことが解らずに眉を寄せて聞き返した。
放課後、急いで日直の仕事をしていた俺に、ソイツは突然声を掛けてきた。
当然、俺は不機嫌になる。
とりわけ仲がよいわけではない、ただのクラスメートなら尚更、時間を取られたくはない。
タカは、今頃昇降口で俺を待っているだろう。
聞き返された側は、俺の不機嫌さに気付かないのか、妙に煮え切らない態度で呟くように繰り返す。
「だから、さ……タカ、好きな奴いるのかって」
「そんなの、俺に聞くなよ」
「本人よりお前の方が詳しそうじゃん」
確かに、最近保護者化している自覚はある。
それもこれも、タカが妙に危なっかしくて、可愛くて仕方がないからだ。
「……大体、そんなの聞いて、どうするよ?」
「…………好き、なんだ」
「はぁ?」
「だから、スキになっちまったんだよッ」
瞬間、グラリと視界が歪んだのは、気のせいではない筈だ。
「………………誰、を?」
「タカ」
長い長い沈黙の後、搾り出すような声で聞けば、即答が返ってくる。
コイツ……タカが、好きなのか。
「男、だぞ、あいつ」
「俺だってわかってるよ。
だけど、駄目なんだ……女と遊んでても、タカのことしか考えられねー」
重症だ。
だけど、同時にコイツの言葉が、俺の脳髄を揺さぶった。
『女と遊んでても、タカのことしか考えられねー』
俺は、女と遊ぶ気にもなれない。
そして気付く。
最後に彼女を作ったのは、いつだったか、と。
「……よりによって、タカ、なのか」
「タカだから、だよ」
はっきり告げるクラスメイトに、俺は妙な怒りにも似た静かな感情を覚える。
「で、好きなやつがいなかったら、告ろうってわけか」
「そう。
お前、知らねぇ?」
「その前に、アイツが男がOKかどうかを確認した方がいいんじゃねーの?」
ヘラヘラと聞いてくるやつに、俺は言い放って席を立つ。
「おい、キヨ」
「……悪ぃけど、俺はそこまでアイツの面倒みてるわけじゃねーから」
手早く荷物をまとめて、書き上げた日直日誌を手に教室を出る。
マグマのように煮えたぎる感情を持て余しながら。
***
「ホモって気持ち悪いよな?」
帰り道、俺はタカに聞いてみる。
隣を歩くタカは、驚いた目で俺を見上げる。
当たり前だ。
誰だって、突然そんな質問をされれば驚く。
俺は冗談にする事もできずに、ただ願うようにタカを見つめた。
どうか、頷いて欲しい、と。
悪あがきだと、心のどこかで自分を嘲笑いながら。
それでも、切実に願った。
そして、タカは。
「会ってみないと、わからないよ」
笑って、そう言う。
俺の気持ちも知らずに。
その瞬間、胸を駆け抜けたのは、焦り。
誰かに、タカを取られるんじゃないかという、何とも言えない、焦り。
そして、俺は認めざるを得なくなった。
俺は、タカが、好きだ。 ……と。
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