1 ブイチューバー、夜箕かける

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1 ブイチューバー、夜箕かける

「皆さまこんばんは、ゲーム実況ブイチューバーの夜箕(よるみ)かけるです。さあ、今日も配信やっていきましょう」 志堂太一(しどうたいち)はマイクアームから突き出したマイクに元気よく話しかけた。 夜箕(よるみ)かける、は名前の音の通り、「夜、見かける」だ。 時刻は夜十時、今からゲーム配信。配信画面のフレーム右下に2Dのアバター、動くアニメの絵が表示される。 ブイチューバーとは、2Dや3DのCGやアニメのキャラクター(アバター)を使って動画配信、投稿を行うユーチューバーだ。 顔出しはしたくないが、地声のまま配信できる形が気に入って活動している。 自分の声に合わせてメイキングしたアバターは、大人のおにいさん寄り。肌面積はやや多め、でも下品じゃない。 表情に幅を持たせたくて困り眉を選んだ。結果、笑ったときに表情の変化が大きくなってすごく良い感じだ。 スマホに向かって笑いかける。 表情がトラッキングされる。 やや困り顔のアバターが連動して、画面の中でにっこり笑った。 別モニターに流しているチャット画面にコメントが、沢山やってきた。「宣伝」「ばんわ」「夜箕つぶやけ」 「っと……そうでした。配信やってます、と。ツイッターで、つぶやいて、と。ね、宣伝大事ですよね……わかってます、いや、口で言うだけなら誰でもできる。改めていきましょう、ええ!」 微妙な表情をスマホのカメラが拾い続ける。口元が動く。目尻が下がる。眉が動く。 配信は誰かの目にとまらないと何もはじまらない。ガワは大事だ。人は見た目だ。ブイチューバーも変わりない。 頬に微かな違和感を覚えた。 太一は手をやりかけ、慌てて引っ込めた。 違和感は、大人ニキビだ。 モニターを眺める。 アバターには大人ニキビなんかできない。 今は、現実の自分の延長線上──夜箕かけるのターンだ。
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