1 ブイチューバー、夜箕かける

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雑談をしつつコメントを見る。 「ばんわー」「はじまってた」「今北産業」「おつです」 よしよし順調。口角が自然と上がる。今から一日の中で一番楽しい時間が始まる。声が弾んだ。 「皆さま、配信来てくださって、ありがとうございまぁす。よーし、じゃ、昨日の続き、いきましょうかー」 フレームのメイン枠にゲーム画面を表示させる。 「ちなみに、音どうですかね? ぼくの声、ちょっと小さいですか?」 会話しながら音量を調節する。 ゲーム自体はそこまで上手くない。お喋りがうまいか下手かで言えば下手かもしれない。ただ、自分と一緒にいるのを楽しんでくれる人と、時間を共有するのが、楽しい。 「あ、ちょ、もー。この壁……あ、ここは、乗り越え、られっ……ないと。えっ、ちょ、やばいやめて、今攻撃やめてああああっ。あーもう、あはは、身動き取れないのに来るからー!」 志堂太一に視線が集まるのは怖いけど、夜箕かけるなら、怖くない。 夜箕なら自然に言える。 気づけば深夜の一時になっていた。 ゲームをしていれば二時間、三時間なんてあっという間だ。 「ではでは、長い時間お付き合いいただきありがとうございました。この配信を気に入っていただきましたら、チャンネル登録、ツイッターフォローよろしくお願いいたします」 いよいよ最後、いつもの決まり文句でしめる。 また会えますように、と結構本気で願っている。 「それでは。次の夜でお会いしましょう。またね」 配信を終了させた。 もろもろやるべきことを終える。 太一はパソコンデスクを離れてベッドに転がった。明日は大学だ。 リアルの自分は商学科の三回生だ。ゼミの調べ物をしないといけない。 現実はいろいろ辛い。ネットに比べて面白くないことのほうが多い。肌も簡単に荒れたりする。 でも、何とかして乗り切っていくしかない。 風呂に入る。 「とりあえず、ニキビってどうやったら治るんだ……」 鏡の中では、肌にニキビを作った自分が、本当に困った顔をしていた。
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