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2 前原心海が、ぼくの配信を……見ていた。
翌日。
真昼の大学構内。
建物二階の教室、一番後ろの席で、太一はあくびをかみころしていた。
授業中だったが、スマホで大人ニキビについて調べてみる。ちゃんと向き合おうとすればするほど、がっくりくる情報ばかりを知った。
夜の十時から深夜の二時はお肌のゴールデンタイムだという。要は、この時間帯に眠っていると肌の調子が整うらしい。
「配信と時間かぶってんだよなぁ」
夜箕の視聴者さんは深夜族が多い。主に十代から三十代。数百人と一緒に夜を過ごす。
普通に生活していれば中々そんな機会はない。
本当に得難い時間だ。
失いたくない。ただニキビは困る。
教室入り口のほうで、何かにぶつかったような音と同時に「きゃ」という小さな声が聞こえた。
同じゼミ生の前原心海だった。
手にはスマホを持っている。歩きスマホだろうか。危ない。
同時に、何を見ているのだろう、と気になった。
心海には彼氏がいる。
でも、実は、前から心海のことが好きだった。
友達としての関係を壊したくなくて、
自分の気持ちを言い出せないあいだに、心海は自分の友人でもある勇汰と付き合いはじめた。
仮にもブイチューバーの端くれだし。興味関心の市場調査は必須作業だし。
本音と建前が混ざり合う。
あまりじろじろ見るのは失礼だとも思ったが、目が離せなくなってしまった。
自分の左前の席に座っていた女の子が、心海に手招きをする。
心海が気づいて近寄ってきた。
自分の真ん前の席に、心海が座る。さらさらの髪が揺れる。髪のあいだから、ワイヤレスイヤホンが見えた。
心海が姿勢を大きくずらした。
ペンケースに隠すようにして立てかけたスマホ画面が、丸見えになる。
否応なしに目に飛び込んできた画面に、太一は「えっ」と声をあげた。
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