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あわてて自分の口を塞ぐ。
小さな画面の中には、昨日やったゲームと夜箕かけるがいた。
心海が後ろを向いた。片側だけイヤホンを外す。
「志堂くん、お疲れ」
「あ、おつかれ」
心海は気づいていない。が、自分は心海をガン見していたので、ちょっと後ろめたい。慌てて目を逸らす。
心海を手招きした女子が、心海の腕をつんつんとつついた。
心海がにっこり笑う。もう片方のイヤホンも外す。
女の子同士の話がはじまる。
「それ、昨日、私、ライブ配信で見たやつ。夜箕かける、心海も見てるの?」
「まじ? わたしも途中まで見てたんだ! でも寝落ちしたー。この人いいよね。声好き。ずっと聞いてたい」
「わかる。イケボ。作業用BGMにしてる」
目の前の空気がきらきらした。
にっこり笑う心海の横顔が、まぶしい。胸の奥がこそばゆい。むずむずする。嬉しくてたまらなかった。
*
授業終わり。心海に話しかけられた。
「志堂くん、ゼミの時間変更になったって聞いた?」
「あ、うん」
気づかれるかも。
妙にどきどきした。
自意識過剰とわかっていた。
今まで普通に話していても気付かれなかった。確率は低い。
でも、正体がばれるかもしれないと思った途端、受け答えがぎこちなくなった。
夜箕かけるは、自分だけど、自分じゃない。
──中の人を知られて、もし、がっかりされたら。
──だって、心海は、自分ではなく、勇汰を選んだ
今まで思ってもみなかった感情に戸惑う。
太一はきゅっと口を引き結んだ。
心海の視線が、肌のニキビに絡んだ気がした。
太一は踵を返した。
逃げるようにその場を去る。
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