3 スーパーチャット(投げ銭)

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「前原さん。ごめん、ぼく余計なこと言ったかも」 「あ、ううん。気にしないでいいよー。志堂くん悪くないし。当たったの大丈夫だった?」 心海がけろっと笑った。 何だか面食らってしまう。 「ん、ぼくは大丈夫。勇汰、結構荒れてたね」 「そうだねー。勇汰はさ、目が雲ってるからね。馬鹿なんだよ」 清々しいまでの罵倒に、うっかり笑ってしまった。 心海が話を続けた。 「多分、わたしと勇汰の違いってさ、物を買う派の人間と、体験を買う派の人間の違いだと思うんだよね」 スパチャをして手に入るのは物ではない。 応援できた、中の人を支えられた、コメントを読んで貰う確率が上がった、配信に参加できた。 そんな喜びが混然一体となった『体験』だ。 「確かにそうかもね」 「そーなんだよねぇ。いや、物も大事だよ? でもさ、何かこう、勇汰とは分かり合えなかったなーって。勇汰って、映画のパンフレット買わない派なんだって。必要ないからって」 分かり合えなかった、という過去形の発言に小さな引っ掛かりを覚えた。 「志堂くんはどっち派?」 「ぼくは買う派」 「あはは、わたしも。体験って言えばさ、某テーマパークとかもそうだよね」 「うん、あれも体験と思い出にお金払ってる。で、高揚した気持ちのままに物としてお土産も買っちゃうよね」 まさに映画のパンフレットと同じような仕組みだ。 心海がなぜか目をきらめかせた。 「そう! 物と思い出ってつながってる! だからかー!」 「何が?」 「昨日勇汰と別れんだけどさ。映画のパンフレット、妹が欲しいって言ってきたからあげちゃったの。断捨離。思ってた以上にすっきりしてさ。理由それだよね」 耳を疑った。 「──へえ……別れたの!?」 思わず聞き返す。 「うん。考え直してくれって言ってきた直後にあの態度は無いわー」 実は、自分は夜箕かけるなんだ、と言ったら。振り向いてくれるだろうか。急に、本当のことを言いたくなった。 でも、言えなかった。 今一つ、自信が持てない。 そんな事を考えているうちに教授がやってきた。 ゼミが始まる。 ゼミの課外活動の日取りが決まったと知らされた。六月の半ば。行き先は、偶然にも心海と話していたテーマパークだった。 ゼミ生全員で行くイベントだ。でも、何より、心海と一緒に行けると思うと、気持ちがふわっと膨らんだ。 当日まで今から一ヵ月以上ある。 突然、ニキビをちゃんと治したいと思った。 何か一つ、目に見えて変わりたかった。自信が欲しかった。 心海に、自分のことを見て欲しい。心海の気を引きたい。自分を彼氏に選んで欲しい。 どこまでやれるかわからない。 でも、やれるとこまでやってみたい。 つまらないとか面白くないとか言う前に、自分の手で現実を変えるんだ。 変わろう。
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