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県境の山をふたつ越えて、
車は夜道をひた走る。
曲がりくねった峠の道に、外灯の明かりはすでに絶えて——
フロントライトに照らし出された木々の生々しい節くれが、
まるでこちらを避けるかのように次から次へと過ぎ去っていく。
辺りはいよいよ「まっ暗」だった。
買ったばかりのピンクのラパン。
無音の車内にふたりきり。
助手席にだらりと座る依子は、あれから一度も口をきかない。
(頼むから何かしゃべってくれよ……)
……じゃないと俺の気がヘンになる。
ためしに音楽をかけてみたが、
こいつの趣味の「ラブソング」なんて今だけは絶対ゴメンだった。
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