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自然公園の標識は、
暗さのせいでわからなかった。
記憶を頼りに車を駐めて、
窓からスマホのライトで見ると、
濡れたアスファルトの先に、
鬱蒼とした森の奥へと続く「入口」が見つかった。
湿った空気にむせ返るような腐葉土のにおいが鼻をついて、
うるさいくらいに虫たちの声が重なりあって木霊している……。
「着いたぞ、依子。ほら、降りろ……」
言っても無駄だとわかっていても、
いつものクセでつぶやいていた。
(これから森に、一人で入る……)
その恐ろしさと心細さを誤魔かすために、また一錠。
冷たいクスリを渇いた喉に、歯で噛み砕いて押し込んだ。
ビビっいてたって埒が明かない、
もう後戻りなんてできない。
(どうにかしなくちゃ俺の未来は、この森よりもまっ暗なんだ……)
「仕方ねぇな、おぶってやるよ……」
依子の体を引っぱり出して、
どさりと背負おうとそのまま俺は、
ふらふらと森へと進みだした。
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