14人が本棚に入れています
本棚に追加
両手が塞がってしまったから、
胸ポケットに入れたスマホの明かりだけが頼みの綱だった。
落ち葉をぐしゃぐしゃ踏みながら、しばらく無心で歩いていると、
さっきのクスリが効いてきたのか、気持ちが少しだけマシになった。
——背中の依子は静かに重い。
まだそんなに進んでもないのに、額から汗が噴き出してくる。
(いったい自分はどこに向かって、何をするつもりでいるのだろう……)
今さらながらそんな迷いがふつふつ湧いてくるけれど、
……アパートをあわてて飛び出た時、
とっさに浮かんだ場所の景色が「ここ」だったから、仕方ない。
(ここならきっと、ちょうどいい……)
「なぁ、依子、覚えてるか?」
背中の彼女に聞こえるように、俺は大きめの声で言った。
「昔、ここに遊びに来たろ?」
最初のコメントを投稿しよう!