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もう、五年近く前の話だ。
あの時は俺のバイクで来た。
“たまには遠くに行きたいね” って、
あの日、依子があのアパートで、
ちょっと寂しげにそう言ったから。
“だったら、『いいとこ』連れてってやる……”
なんの当てもなくバイクに乗せて、
そのままメチャクチャに走って来た。
夏の日の長い夕暮れに、偶然、近くを通りかかって、
「自然公園」の標札を見て、
“着いたぞ、依子。ほら、降りろ……”
——じつはこの辺の森全部、親父の持ってる土地なんだ。
“夜なんかスゲー、星キレーだぜ?”
俺のバレバレな嘘を聞いて、
依子はうれしそうに笑った。
“じゃあ、案内してくれる?”
おまえは変わった趣味の女で、
唐突なことやデタラメなこと、ロマンチックなのが好きだった。
“ムネくんの破天荒なとこ、楽しいね”
って、いつも笑って。
無計画なだけの俺のことを、おまえは褒めてくれていた。
……これまで話してきたこと全部、
いや、たぶん「9割」くらいはテキトーな思いつきだったのに、
バカみてーに信じてくれたのは、マジで惚れてたからなのか。
(結局、最後の最後まで、遊園地とか海外だとか、『普通の恋人らしい場所』には連れて行ってやれなかったな……)
でも、それはおまえがわるい。
おまえが俺を怒らすからだ。
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