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あの瞬間のことを思うと、
割れそうなくらい頭が痛む。
数時間前に起こったことが、
なんだか夢のように曖昧で。
脳みそが事実を受け容れるのを全力で拒否しているみたいだ。
俺は依子と大ゲンカした。
理由は大したことじゃない。
仕事帰りのあいつが俺に、
頼んでおいた「何かの用事」を済ませたかどうか聞いてきた。
——覚えてねぇよ。
俺の答えに、依子はめずらしく腹を立てた。
“『雨降ったら』って言ってたでしょ!?”
“だから『知らねぇ』っつってんだろが!”
そしたらこれまで我慢してきた色んな不満がこみ上げたのか、
ヒステリックにグチグチグチグチ、
俺が昔から忘れっぽいのを今さらになって責め出した。
(あの時も、あの時も……)
とっくに期限の過ぎたことまで次から次へと引っぱり出して、
一時間くらい続けてきたから俺も相当イラついた。
(思い出してもあの時は、二人ともどうかしてたんだ……)
アパートの部屋が暑かったのと、
隣から金切り声でギャーギャー泣く赤ん坊がうるさくて。
そんな小さな違い以外は、いつものケンカとそう変わらない、
頃合いを見て俺が謝って、「ハイ、おしまい」のはずだったのに。
……なのに、どうして今回だけは、
いつもみたいに自然な形で収まらなかったのかわからない。
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