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 そうだ、妻と娘はどこだ? 記憶が蘇る。深夜に近づいてくる救急車のサイレン。激しく咳きこむ音。ぜいぜいという荒い呼吸音。そうか、家族の誰かがコロナに感染して、病院に運びこまれた。だから、濃厚接触者の私は隔離されているのかもしれない……待てよ、感染したのは誰だ。妻か娘か。思い出せない。どちらでもいい。病院に行かなくては。  焦った私は、部屋のドアノブをつかんで回したが、開かない。幽閉されている? ー ココカラ、デルコトハ、デキマセン。 「俺をここから出せ! 家族のところへ行かなきゃいけないんだ」 ー ソレハ、ムリデス。 「お前は誰だ! どこの行政機関だ! 保健所か! 俺を閉じこめる権限なんぞない筈だ!」 - ケンゲンデ、トジコメテイルノデハ、アリマセン。ヨク、オモイダシテクダサイ、マエノコトヲ。  一週間前の深夜、わが家のアパートに救急車が来た。激しく咳きこむ音。荒い呼吸音。  患者はどこですか。救急隊員の声に「こっちです」と妻の声。すると、患者は娘なのか。 「お父さん、しっかりして」  私の手を握って娘が言った。ただの風邪だ、大げさだぞ、と言おうとしたが、声が出ない。ヒューヒューと呼吸音しか出ない。息が苦しい。私は激しく咳きこんだ。  私が患者だった。ストレッチャーで運ばれる私の体は、高熱と悪寒で震えていた。救急隊員たちは体中を真白な防護服で覆っている。 「お願いします。お父さんを助けてください!」  妻の悲痛な叫び声は、救急車のドアを閉める音に断ち切られた。
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