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低くて、深みのある声。
その声が自分を傍らへ呼んでいると、名を呼ばれただけで分かる。
一瞬躊躇いながらも、抗いがたい引力のようなものに引かれて、龍樹はそろそろと養父の傍らに近付いた。
養父が視線で示した場所に腰を下ろすと、小さなボトルが養父の傍らにあったことを知る。
酒瓶と呼ぶには随分華奢で、可愛らしい瓶だった。
「母さんと綾は?」
「寝てる。俺だけ、なんだか、寝れなくて……」
「だから足音忍ばせて降りてきたのか。ほんっとお前、今足音しなかったぞ」
その言葉に龍樹はギクリと体を強張らせる。
だが養父はそんな龍樹に構うことなく再びお猪口を傾けた。
以降、特に言葉が続くこともなく、ただ静々と月の光だけが二人の間を満たしていく。
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