Lycoris −掃除人と月夜の思い出−

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 ……龍樹は、ただの子供ではない。  今までただの子供でいられたことはなかったし、きっとこれからもただの子供……引いてはただの人間にもなれない。  国家の名を背負って、国に不要となった人間を片付ける『掃除人』。  龍樹は小学生でありながら、すでに掃除人という肩書を負っている。  その肩書を負っていなければ、存在することさえ許されない。  自分の年齢が両手の指の数より多くなるより早く、龍樹は『人殺し』の咎を負った。  そんな龍樹を、この家の中で、恐らく養父だけが知っている。  養母や義妹に絶対知られたくないと思っている、龍樹の大きな秘密を。 「……ただの子供でいて、いいんだからな」  その事実を不意に突き付けられたような気がして、体を強張らせたまま顔を伏せる。  だがそんな龍樹の頭上に降ってきたのは、柔らかな言葉と温かく大きな手のひらだった。 「この家にいる間は、お前も普通の子供でいて、いいんだからな」
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