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「動けねぇなら、俺が抱えてベッドまで運んでやろうか?」
「っ!?」
「あ。もちろん俺のベッドな。子供は体温たけぇから湯たんぽ代わりにいいんだけどよぉ、最近綾はオトシゴロなのか、一緒の布団じゃイヤって言うし……」
「お、俺だってそうだしっ!! 」
今度はきちんと声音を落として、それでも険は隠さずに養父に否を叩き付ける。
跳ねるように立ち上がり、養父を追い越して階段を駆け上る時も、もちろん足音なんて一つも立ててやらない。
「お、おやすみっ!! 」
「おう、おやすみ」
ニヤリと笑ってヒラリと手を振る養父に一瞥くれてやってから、龍樹は無音のまま自分の部屋に駆け込む。
そのまま自分のベッドに勢いよく飛び込んで布団を手繰り寄せれば、ずっと訪れる気配のなかった睡魔がソロソロと姿を現すのを感じた。
──でも、もう少しだけ、父さんと話していたかった。
義母も義妹も傍にいない、月光に照らされた養父を、独り占めできた時間。
あんな時間はもう、二度と巡って来ないような気がしたから。
そんな微かな予感に身を任せながら、龍樹の意識はトロトロと夜の中に溶けていった。
【END】
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