第一章

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第一章

 大聖堂 宝物庫前――― 「また無い!」  一際、大聖堂内に響き渡る声。その大きな声を発した主は、必死に手元にある端末で何かを確認する。  何度も何度も、指を滑らせるように端末に向かってスライドするが、声の主は、その状態に頭を悩ませる。 「え、どういうことなんだ」  声の主、まるで白い神父服のような服を着ていた青年は、何度も何度も端末を眺め、挙げ句の果てにはキスをするように端末の画面に向かって顔を近づける。 「え、えぇ」  この状況を飲み込めなかった青年は困惑しながらも目に映る何度も何度も端末に表示される文面を確認する。 「これは、もしかして……」 「あん、どうした?」 「ひっ!?」  すると急に青年の後ろから声がかかる。 「おいおい、どうしたよ綿摘。そんなに怯えるような声なんか出して」 「釜倉さん!? 何でこのような場所に!?」 「お? 俺が来ちゃいけないってことか?」 「い、いや、いいえ……」  青年、いや綿摘 命都(わたづみ みこと)に対して背後から声をかけてきたのは、釜石 直治(かまいし なおじ)と呼ばれるいかつい顔をした男性は大きな笑顔で命都のことを見る。  対して命都は大量の冷や汗を流しながら釜石の方を見る。 「え、えっと……」 「どうした? また、宝物具がなくなっていたのか?」 「な、なんでそれを!?」 「お前が大抵困るときはそんな感じだろうがよ」 「あ、……申し訳ございません」  だが釜石はそのような命都の行動は読んでいたように事実を並べると命都は驚いたような声を上げる。 「まぁ、いいよ」 「ほ、本当ですか?」 「うんうん、で? 今回は一体、何持ち出されたんだ?」  宝物具と呼ばれる道具は、人智の集大成であり、ある意味、人智が理解しがたいものが含まれるものであり、安全な物でも使い方を間違えてしまうと人に危害を加えてしまうこともあるし、危険なものになると世界を滅ぼすものもあった。  そのような道具を命都は、たった一人で管理をしていた。 「……№68と№132です」 「68番と132番、かぁ。となると比較的安全な物じゃねぇか?」 「そうですか?」  命都がそういうと、釜石が「あぁ、そうだよ」と短く言うが、その番号の道具はどのような物か理解できないだろう。  簡単に、言ってしまえば作物を無限に育てる如雨露と、ものすごい速度で飛ばすゴム鉄砲だ。  こう文字にしてしまえば案外、かわいく見えてしまうだろうが、使い方を間違えればどちらとも十分な危険な代物だ。 「あぁ、そうだよ。あいつか、そう変な風に使うと思うか?」 「ですが、表舞台に出てしまうと、我々の名前に傷が……」 「いいんだよ。別に」 「ですが……」 「そんなに気にするなよ。あいつはすごい奴だぞ? 一人でもどうにかなるだろ」  釜石にそう言いくるめられると、命都は渋々、管理作業に戻る。 「所長!」  すると騒がしい足音が彼らに向かってやってくる。どたばたと慌てたような姿をしながら荒い気を吐きながら、一人の所員が荒い息を吐きながら釜石の前に立つ。  「おう、どうした? 木下」 「所長! 都内が大変です!」 「あ? 何があった?」  さすがの慌てように釜石も少々、不思議そうな顔をする。  木下と呼ばれる所員は「あ、あぁ!」と何か慌てたような様子を見せるが、釜石は何も言わずただ静かに木下の前で佇んでいる。  そして、徐々に冷静さを取り戻した木下の口から衝撃的なことが流れる。 「現在、都内に巨大なトマトが出現しました!」 「……は?」  木下の口から出てきた言葉に釜石は何言ってんだお前、みたいな顔で木下の事を見る。 「……あぁ、どういうことだ?」 「すみません。少し、言葉が足りませんでした! 正式には聖女様が使った宝物具のせいで都内の小さなミニトマトが巨大化しました!」  ガタッ! ガシッ、シュッ! 「……あぁ、そういう事か、なら木下、一つだけ言ってやる」 「え、……いや、先ほど、あ、まぁ、はい」 「もうその事件は終わった。後始末行くぞ」 「え、あ、え、あー……分かりました」  肩を叩くきながらフォローするように釜石はそう語ったが、木下は宝物庫から見たこともない速度で出ていった何かに驚いていた。
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