第一章

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 執務室――― 「…………」  一人残された執務室で聖女様は窓辺から映る外の風景を眺めていた。  鳥籠に囲まれたような鳥が、外の世界を憧れる様に、どこか寂しげな瞳で窓辺から映る風景を眺めていた。 「……さみ、しい」  ふと口の中から漏れる言葉がセイラの心の苦しめる。  コンコン、 「!!」  すると、突如、執務室の扉が叩かれる。  セイラは扉を叩かれた瞬間、まるでご主人が返ってきたペットの様に、顔を思いっきり上げると、扉は何も言わず静かに開く。 「暇か?」 「みこと……」 「……暇、そうだな」  セイラの執務室の扉を叩いたのは、命都だった。  だが命都はいつものような不機嫌のような顔をしておらず、扉を叩いた手の逆に一つの箱があった。 「ドーナツ、食うか?」 「……うん」  命都はそう言いながら、セイラに向けてドーナツが入った箱を向けると、セイラは一瞬だけ喜ぶとすぐに表情を戻し、命都のことを見る。  命都はそのセイラの表情を見て、その手に持っていた箱をテーブルの上に置くと、「給湯室借りるぞ」と短くセイラに話しかけ、執務室の中にある給湯室へと向かった。  命都が給湯室に言っている間、セイラはドーナツの入った箱を開け、中に入っているドーナツを覗き込む。 「!!」  箱の中には、彩り豊かなドーナツの数々が入っており、セイラの好物のドーナツに、最近、噂になっているドーナツさえもそこにあった。  それを見たセイラはふんすふんすと、多くのドーナツを眺め、まず最初二度のドーナツを食べるかなどを考えていた。 「お茶、ってもう食べているのかよ」 「……もぐ」  命都は手に紅茶が入ったティーカップを乗せているティートレイを持ってくると、セイラの口の中には既に命都が買ってきたドーナツを既に加え、彼女の両手にも一人で食べるには大きすぎるドーナツが二つあった。  その姿はまさにつまみ食いをしている可愛らしい女の子の姿であったが、命都には綺麗な服装をした女性が子供の様にドーナツの頬張っている残念な姿に見えていた。 「……まぁ、そのまま食べていていいよ」  命都がそう言うと、セイラは食べる手を再び動かし始める。  彼女の食べる手は止まらず、ただ真剣に美味しそうに食べているとこを見ると、命都自身も頬が緩む。 (……こんな子供が聖女、か。宗教団体って奴は何で、こう子供を苦しめるんだろうかね)  命都はそんなことを考えながらセイラを悲しげな瞳で見つめながら、彼女の前にティーカップを置く。 「食べないの?」 「うん? って、もうここまで食ってんのかよ。少しぐらいは残せよ」 「残してる」 「まぁ、そうだけどさぁ」  じっと、セイラのことを見ていると、何とセイラは既にはこの中にあったドーナツを半分ほど減らしており、それを見た命都は先ほどまでと変わり呆れたような視線で彼女のことを見ていた。 「最近、どうだ?」 「どうだ、て?」 「調子だよ。調子。最近の出来事とか」 「命都に怒られた」 「それ、おめぇのせいだな!?」  勝手に宝物具を持ち出して、まるで他人に勝手に起こられたように言うセイラに対して、命都は大きな声で彼女を叱責する。 「……あぁ、質問間違えた。最近の執務の進み具合とか体調などの事を聞いているんだよ」  命都はそう言うと、セイラはうーん、と悩むように考える。 「体調なら、良好。直治にも言っている」 「釜倉のおやっさんに言っているのは別に知っているよ。なら執務の方は?」  執務の話を瞬間、セイラの表情は固まる。  命都はその彼女の表情を見ると、何か確信したかのように問い詰める。 「………………」 「……やっていないんだな?」 「……………………」 「やっていないんだな?」 「…………………………………」 「やっていないんだな?」 「…………………………………………」 「やっていないんだな!?」 「……………………………………………………(コクン)」  決定。  命都の強硬尋問のお陰で、セイラが執務をやっていないことを自白し、命都自身は物凄く疲れているような顔をしていた。その疲れようはセイラのせいで始末書に追われることよりも、疲れている表情をしており、彼の口の端から先ほどまで飲んでいた紅茶を溢していた。 「どうしたの?」 「どうしたの? って、こっちが聞きたいよ」  セイラは不思議そうな顔で命都のことを見ていたが命都は何か迷っているような顔をしていた。 「………くそぅ」 「?」  顔を項垂れ、何か悟ったような顔をしている命都は急に顔を上げると、セイラが覗き込んでいたドーナツが入った箱から思いっきり手を入れると、手に取ったドーナツをそのまま頬張り、一気に紅茶を飲むと、その場を立った。  ソファから思いっきり立ち上がり、執務室の扉の方へと向かう。 「明日からきちんと執務しろよな!?」  扉を開け、命都はセイラの方へと振り向くと、そう大きな声で言うと執務室を出て行った。 「……………ふふっ」  誰もいなくなった彼女だけの執務室の中では、セイラはただ一人、静かにドーナツを頬張っていた。
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