瞳が見えなくて

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「最近、キレイになった?」  私の隣の彼が言った。 「え?」  私は今日も昨日もいつも通りだと思った。  化粧はあまりしない方だったのだ。  だいたいすっぴんに近いのだ。  サンサンとした柔い日差しが小さな公園に降り注ぎ。ベンチに座る彼の顔を怪訝に覗く。  目を背けた彼の横顔はいつも精悍な顔だった。 「何かやってる?」  と、昔に一度聞いたことがある。  その頃の彼はいつも笑顔だった。  無理をしても笑顔を欠かせない彼が、ここ最近は、笑顔がぷっつりと消え俯くようになった。 「最近、キレイになった?」  またその言葉を彼が言った。 「何かやってる?」  またこの言葉を私は言った。    お互いに返事はない。    しばらく二人でいつまでも何も言わず下を向いていた。  午後の2時。  日差しが弱くなり、小雨が降りそうな空模様になってきた。  彼と別れ、私は小さな公園から喫茶店へと向かった。  そこは私のバイトをしている場所だ。  専門学校に通い。  土日はこの喫茶店。  彼とは駅で出会った。
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