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堀が心底驚いたような表情で私を見る。
いつも飄々としている堀のそんな表情は珍しいと、冷静な私。
その私を横目に、瞬間的に怒りを頂点にさせ、ノートを閉じたのはやっぱり右手だった。
そこからさらに振り上げて、堀の頬を引っ叩こうとする右手の衝動を、頭が必死に抑えている。
「何してるの」声が震えている。なぜなのか、冷静な自分には理解できていなかった。
ノートを見られただけだ。ただ、それだけだ。
でも、広げていたわけでもないのに、彼は勝手に開いて見たのだ。
勝手に、読んでいた。
私は怒っているのだろうか。それとも、悲しいのか。
嬉しいわけではないことだけ、わかっている。
見上げると堀の顔が近くにある。
彼は何も言わない。本当に、驚いているようだった。
その表情から、悪気はなかったのだろうと冷静な私。
そんな問題じゃないと冷静さを一蹴する私が、激昂していたかと思っていたら、もう悲しみの海の中に溺れている。エベレストの頂上から飛び降りてマリアナ海溝へと潜るぐらいの高低差。
ノートを片付けておけば良かったという後悔とか、反省事項を見られて恥ずかしい気持ちとかが、私を更に惨めにさせる。
そうか、やっぱり、惨めなのだ。
私は、惨めだ。
堀をじっと見つめた。
彼も私を見つめている。
堀は、やがて、口元を緩めた。
笑っている。
笑ったのだ。
私を。
私の、このノートを。
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