2020年6月20日(1709)

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「あれ、何か食べるのゆっくりになった?」陽乃が私の取り皿を見ながら言う。取り皿にはこぼれ寿司とのどぐろの塩焼きが半分の半分、まだ残っている。 「そう?」わざとらしく、首を捻ってみる。内心は鋭い陽乃の観察眼に驚いて少し動揺していた。 「そうだよ。前は早くて、追いつくの大変だったんだから」陽乃は一口飲み込むまでに百回噛んでいるのではと思えるぐらいのゆったりしたペースだったから、食べるのが早い私に追いつくのは確かに大変だったのだろう。 「ごめんごめん。最近ダイエットしててさ。それで、ちゃんと噛むようにしてんの。今までは全て飲み物扱いだったから」 「食べ物は存在しない」真剣な顔で、テレビのナレーターのような口調と真剣な表情で陽乃が言う。 「私に掛かれば、全て飲み物となる」私もそれに乗っかり、二人して馬鹿らしくなって笑い合う。  吸い込む動作をすると「それは掃除機でしょ」と陽乃が笑うので、「それは陽乃でしょ」と返す。陽乃が笑いながら「誰がダメ男ダイソンじゃ」と小突いてきた。高校の時の仲間内のあだ名だ。ちなみに私はだめ男ほいほいだった。二人してろくな呼び名を持っていない。  そこから暫く高校時代の昔話に花が咲いた。 「よし、今日は日本酒、飲んでみようかな」  楽しくなってきて、調子に乗る。飲め飲めと煽りながらも、私が全く飲めないことを知る陽乃は半分心配そうだった。 「陽乃も飲むの手伝ってね」 「いいけど、珍しいね」 「今日は飲みたい気分」それは半分本当で、半分嘘だった。いつだって気分は飲みたがっている。身体がそれに対応できないだけなのだ。 「お、いいね。そういう時は飲むに限る」  ビール二杯、ハイボール三杯に日本酒をほぼ一合を飲んだ陽乃と、日本酒をおちょこ一杯飲んだだけの私は同じぐらいの顔の赤さになって、別れた。
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