2020年2月22日(1827)

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2020年2月22日(1827)

  753f5962-292e-4677-8d60-ab1a43a5a7c7  孤独は、雪の世界と似ている。  どちらも身を引き締め、頭をしんと鎮め、心を露わにする。  真っ白な世界。  一人でいることが、孤独というわけではない。  何人といても、大勢の中にいたとしても、そうと感じれば、それは孤独になる。  だから、私は、孤独なのだろう。  そう考えながら、寒くて暗い部屋の中、白い壁に貼っている三種類のカレンダーの前に立ち、月明かりと街灯で照らされるそれらを見つめる。  今日は2020年2月22日午前0時を回ったところ。  私の、30歳の誕生日。  カレンダーのひとつは、偉人達の名言が書いてある日めくりのもの。今日は『人生とは孤独であることだ。誰も他の人を知らない。みんなひとりぼっちだ。自分ひとりで歩かねばならない』と書いてある。ヘルマンヘッセの言葉らしい。今の自分の心と繋がっているようで、笑ってしまう。  もう1つは、世界の絶景の写真と共に、2ヶ月分の日付が書いてあるカレンダー。1月と2月のページには、アラスカの氷河の写真が載っている。  そして10年カレンダーだったものを、無理矢理切り取って6年カレンダーにしたもの。  2025年の2月以降を切り取ったので、できそこないのレゴのブロックみたいな形になっている。最終日に設定した2020年2月22日には、赤いマジックで丸をつけている。  2025年の2月22日、35歳の誕生日に、私はこの世界から消える。  病気や、事故ではなく、誰かに殺されるでもなく、私は、私の意志で、いなくなる。  自分を動かす頭と身体、そしてこの心を、捨てる。  でもその日まで、冷静な頭を最大回転させながら、身体を動かし続け、この心を抱きしめながら、生きていく。  孤独の世界に生きていくことは、寂しいだろう。  たぶん、とても、辛く、悲しい。  孤独に生きながら、一歩を踏み出すことは、とてつもなく怖い。  それでも私は、この私と、今を、生きていく。  全力で。  歩みを止めることなく。  丁寧に。繊細に。  優しく、柔らかく。  生きる。
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