きれいになった?

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歓楽街の駅前にあるドラッグストアに勤めている。 オープンスタッフだったから15年目の最古参。店長や社員の方は1年ぐらいで入れ替わってしまうため、契約社員の私が、この店に一番、時間を置いてきたわけだ。愛着ありすぎ。常連のお客様もそれなりにいて、楽しいっちゃ楽しいけれど、アホな客もそれなりにいて、たまに怒りが爆発する。それでも辞めるわけにはいかないか。 今年で50になる私は、新しい仕事を身につけるなら、そろそろかなぁとも考えたりもしたのだけれど。 「おねーさん! 皮膚の薬どこ?」 声の主は二十歳ぐらいの男の子、チャラチャラした格好で、一目で夜のお仕事ですねとわかるコだ。うむ、おねーさんと、声をかけたのはよろしいぞ。 「はいはい、こちらねー」 私は、ずらりと並ぶ医薬品の棚の中から、皮膚関係、洗顔関係などお薬が並ぶ棚へと導いた。 「なんかさー。みてみて。最近、吹き出物がすごいんだよねー。どれがいいかねー」 彼の頬にひたいに、プツプツとニキビができている。気になると言えば、気になるけど、身近で見なければ、気にならないレベルのたぐい。 まぁ、『みてみて』、言えるのはこんなものだ。本当にひどかったら、医者以外には、そうそう見せられる人はいない。 ああ、手術の後を見せたがるおっさんの酔っぱらいはたくさんいるな。まぁ、アレも元気になったから見せられるんだろうけど。 「おねーさん、おススメ教えてー」 腰を落として、棚をみているから、私を上目遣いで見上げてきた。ちょっと甘えた声を出して。 「このあたりはサルファ剤の抗菌成分、こっちはバシトラシン。どれも効きますけどねー。でもね、ニキビとかの一番の要因はストレス・食生活の乱れ・睡眠不足だからねー。そのあたりは大丈夫?」 「Σ(゚Д゚;エーッ! ストレスたまりまくりだし、酒飲まされまくりだし、寝てねーし」 「うーん、治るかな? っていうか、青年、ニキビだけじゃすまないよ。そんな生活してると」 息子とほぼ同い年ぐらいだからかな。気分はすっかりおかあさん。優しく注意してあげた。 「俺、今、ホストやってんの! なかなかお客つかないから、大変。ノルマ大変!」 「うんうん、健康第一のホスト目指してがんばれ」 「えー? いるかな、そんな奴?」 「いないなら、青年、あなたがなんなさいよ! あ、ごめん。レジいっぱい人ならんじゃったから、行ってくる」 レジカウンターで、アルバイトの女の子が必死の形相でスキャンしている姿がみえる。4人も並んでしまった。 「おー。適当に買っていきまーす。ありがとねー」 うちのドラッグストアは24時間OPEN中。 息子が巣立ってからの私の勤務時間は12時から21時だ(1H休憩あり)。もうすぐ上がりの21時だけど、この辺りの時間もすごい混む。食事や一次会を終えて帰る人かな? 二次会に行く前による人かな? これからお仕事の人もいっぱいいる。歓楽街は、ある意味、面白いっちゃあ面白い。自分ができあがってる人なら大丈夫。誰かに引きずられちゃう人は、この街で働くことは、何の職であれ、おススメしません。どこから、みょーなお誘いがくるかわからないからね。 先ほどのニキビの青年は私が担当するレジに並んでくれた。 皮膚の炎症を抑える薬と栄養ドリンクと二日酔い防止の薬を私の前に並べて笑って見せる。 「じゃねー。効かなかったら、また来るー」 スマートフォンでピッと決算を終え、青年は私が差し出した袋を手にして、店を出ていった。 ホストクラブとかに全く縁のない私はよくわからいけど、まだまだ、かわいい顔をしてるのに、帰りまでにはぐでんぐでんになるまで飲まされるのかな? 今度、来てくれたら肝硬変の話でもしてやろうか。 
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