第四部・柏谷重文の無情と執着/(1)会社

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第四部・柏谷重文の無情と執着/(1)会社

「……うん。それは確かにそうなんだけど。でも愚痴ってるだけだと事態はなんにも変わんないじゃない? 日野くん的にはどんな手を打つつもりでいるのかい?」  内容は詰問。されどそれを匂わせぬ穏やかな口調で柏谷(かしわたに)重文(しげふみ)が電話越しに問いかけると、通りがかった蒔田一臣がもろに柏谷の顔を見てきた。――またか、とその顔に書いてある。彼の言いたいことは分かっている。  投げっぱなしにせずに、もうすこし相手をしてやれ、と。  だかそれはスタンスの違いだ。蒔田は、目の前で部下が盛大に転ぶのを阻止するタイプのようだが、柏谷は大怪我を回避する以外は特になにもしない。手短に話を聞いてやり、本人に『判断』をさせること――そのことを重視している。  かつて、蒔田は一色に、自分の仕事のやり方に相手を染め上げる方法を嫌悪する旨を明かしたのだが。実のところは蒔田のほうが待てない・手を出したがる性分である。  だからこそ、鉄面皮で無愛想、とっつきにくいの三拍子と来た性格であっても上司後輩問わず支持者は多く。
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