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と、蒔田一臣は覚悟を決めた。妻の話で盛りあがる日野と柴田を尻目に席を離れ、畳を踏みしめいざ鎌倉。どうやら宗方は隣にいる柏谷をいじり始めている様相。――おまえ、いい加減結婚しろよ。彼女いないのかよ。もういい年だろ。……言いにくいことを突っ込むのが好きなひとなのだ、宗方は。権力者の特権。
「おお蒔田」――気づいた。宗方が顔をあげた。ひとが多いせいか酒のせいか頬がテカっている。「――帰んの?」
――帰ります!
と蒔田一臣は絶叫したい心境だった。しかし彼はひとまず首を傾げ、「ええ……そろそろ」と言葉を濁す。『碧の青春』時代の頃の彼からは考えもつかない行動である。都倉びっくり。
「なんだー」宗方が手招きをする。空いている自分の隣の座布団を叩き、「まだいーじゃん。ちょっと話そうぜえ?」
蒔田一臣は眉が動くのを自覚する。――『ちょっと』が、長いんだ、このおっさん。自分もおっさんと呼ばれる年頃なのだが彼は自覚したくない。
とはいえ。
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