閑話休題・蒔田一臣の煩悶と面倒/あの、そろそろいいっすか、宗方さん

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 上司には逆らえないいちサラリーマンゆえ、彼は大人しく座る。すると近くにいた新人の栗原(くりはら)がウーロンハイを作り始める。――いや、もう、おれ、いいから。しかしながら新人の健気な行動を無下にはできない。産休、ならぬサンキュ、と声をかけグラスを受け取る。 「でさー」――近づけるな顔を。酒臭い。「最近、紘花ちゃん、どうしてんのよー」 「どうもこうも」蒔田はグラスに口をつけ、「育児でてんてこ舞いですよ。おれの相手をする暇もなかなか作れないみたいで」最後に、おれの嫁のことは榎原ちゃんと呼んでください、と言い足す。これ絶対。蒔田が怒ったとて笑みを絶やさぬ宗方は、 「ふーん。あそうなんだー。ご無沙汰ぁー?」 「……でも、ないです」この程度のシモネタくらい笑って受け流せねばGLなど務まらない。「あいつが世界で最も愛しているのはたったひとり。このおれですから」
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