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「――おおっと! 宗方さん時計新しいのにしたんすか!?」
思わぬ声が割って入る。――いつの間に対面する席に来たのか。桐沢遼一……。驚いた顔をしたのは栗原に同じ。
「しっかも! 見せてくださいよ! それ、ひょっとして……IWC(アイ・ダブリュー・シー)のマークXVIIやないですか!!」
ちょっと呆然とした宗方の腕を取りガン見する有様。「すっげ……、日本人の手に馴染みやすい38mm径……軽いのに高級感ただようメタルバンド……ああ……惚れ惚れするぅうう……」
――蒔田はうんざりした顔で思い返す。
時計! 時計を褒めるんだよ! 宗方さんと喋るときは!
……つい先日、蒔田の隣にいる栗原に教えたばかりのことを実践してくると来た。それは別にいいのだがタイミングというものが……。
へー。桐沢よく勉強してんねえ、と相槌を打つ宗方。まんざらでもなさそう。普通高い金を払って買ったブランド物を褒められたら悪い気はしない。そもそも、ブランド物自体が『世間様に自慢をするために身につける』代物だ。――このからくりに気づかない人間は多いが。
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