閑話休題・蒔田一臣の煩悶と面倒/あの、そろそろいいっすか、宗方さん

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 そして、蒔田は見た。腕時計談義をおっ始めた桐沢がちらとこちらに視線を投げ――  得意げに笑っていたのを。  ――てめえ。  ぶっつぶす……。  蒔田のこめかみに血管が浮く。青白いオーラが彼をまとう。ケンシロウさながらパキパキと拳を鳴らすのだが、気づかぬは当人たち以外のみ。柏谷にどんまい、と背中を叩かれる有様だ。……どんまい……。  宗方といえば高級腕時計を外して桐沢に見せびらかしている最中で。――蒔田は、知っている。宗方の時計を褒めて褒めて褒め倒す戦術に出た桐沢が、宗方の要らなくなった腕時計を何本か譲り受けたことを。第三事業部のメンバーで飲むときにはちゃんとそれをつけてくることを。――桐沢は蒔田の妻のかつての同期であり所属は営業部だが、第三事業部の担当ゆえこうした飲み会にはしきりに顔を出す。――裏で。  どう言っているのか。この場にいる何人が知っているだろう? ふと、蒔田は座敷を見回す。  ――成金趣味。つかジジくせえ。  ――でーも仕方ないんやで? これも仕事のうちー。
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