閑話休題・蒔田一臣の煩悶と面倒/あの、そろそろいいっすか、宗方さん

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 なーんてトイレで営業部の後輩に指南――いや、愚痴っていたのを。――壁に耳あり障子に目あり。宗方部長の耳に入るんではないかとこっちが冷や冷やした。はた迷惑な。  あーっほんとかっるー。つかかっけー。まじかっけえっすよ宗方さん!  いやかっけえのはぼくじゃなくて時計のほうなんだけどね……むふふ……。  ――システムアイに勤める人間はみな上下関係に厳し目で、何故かやたら体育会系の気質である。なにげにIT系全般としてそうした傾向があるのかもしれない。三木谷浩史然り堀江貴文然り。そんなわけで、この場における新人・栗原の言動は身をわきまえたものとなる。上司と営業の会話に目を白黒させながらもさりげなーく桐沢のためにウーロンハイを作る健気な行動に出る。そして、タイミングを見計らわねば新人はいつまでたってもトイレに行けない。頃合いと見たらしく、黙って席を離れる。  蒔田は、宗方と桐沢の会話を聞き流しながらその動きを目で追っていた。その後ろ姿は――かつて彼を興奮させたあの姿とはほど遠い。栗原に罪はないのだが。後ろ姿だけで男を籠絡できるのは蒔田紘花ただひとりである。  ところがだ。
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