第四部・柏谷重文の無情と執着/(1)会社

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 一方で、柏谷の部下からの評判は綺麗に二つに別れる。――なんでも任せてくれてありがたい、と。  あのひと丸投げで全然なにやったらいいか分かんない。  一言でいえば『いい上司』『大っ嫌い』の二択。  柏谷の方針に戸惑う部下は少なくない。自覚しつつも、柏谷のほうは、自分の主義を曲げるつもりはなかった。肝心なことは周りがいくら言ってもしょうがない。本人が危機感を抱いて自分から行動を変えようとしない限り、なにも変わらないのである。  ――この『危機感の植え付け方』というものが曲者で。  大概の人間は皆、仕事をしていくうちに自然と身につけていくものであるが。センスのない人間は気づかずじまいである。きっと退職するまで気づかないままなのであろう。能力不足や問題を起こすゆえにプロジェクトに配属されず、新人の倍の給与を貰い、本社でネットサーフィンをし続ける連中。柏谷はあの手の待機メンバーを嫌悪している。相手に過度な条件を求め婚活に勤しむ独身者と同じ匂いを感じるのだ。
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