第四部・柏谷重文の無情と執着/(1)会社

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 何度かあの別部署のお荷物メンバーを配置させたことはあるが、いずれも顧客からは不評だった。で当人に話を聞き出してみると『こんな仕事をわたしが/ぼくがするはずがなかった』口を揃えてそう言う。からくりはまったく同じだ。  自分のほうは一切変える努力をせず。  一方、相手のほうに過大な要求をする。  美形で高収入のパートナーが欲しいのに自分は容姿能力もろもろを変えようとしない。ないものねだりだ。世の中には便利な言葉がある。  ――『分不相応』。  だから、柏谷は、結婚を、しない。――単に、相手に深く関わるのが、面倒くさいのだ。仕事と趣味のことで彼は精一杯だ。ほかの誰かを気にかける余裕などない。  一般に。結婚は周囲を含めると三十二歳くらいまでがピークで。それを過ぎた頃から周りからのプレッシャーをかけられることは少なくなり。次第に諦めのほうへと走っていく。もっとも。  柏谷のほうは独身貴族を『諦めた種族』などと解釈してはいないが。  独身者の自由。  それは、何事にも代えがたい。
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