【短編】箱庭の夜に星は降るなり

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 廊下の向こうから、楽しげなざわめきと音楽が聞こえてくる。  しかし、この視聴覚室の準備室には、スピーカーすらなく、静まり返っている。学校の片隅にありながら、学校から隔絶されているようだ。  ふいに、外から女の子の声が聞こえて来た。急いで立ち上がって戸口に駆け寄る。 「えー、何や怪しいやん。やめとこ」 「そやなぁ。聞いたことないもんなぁ、天文部とか」 「そんなんあったっけ?」  声は段々遠ざかる。  今日何回目かのため息をつきながら、再び元の椅子に腰掛ける。  暗幕の張り巡らされた壁。中央に設置した、家庭用プラネタリウム。蛍光灯をオフにして、このスイッチを入れれば、満天の星に囲まれるという仕掛けだ。  けれど、昨日文化祭が始まって以来、一度も人目に触れていない。  せっかく準備したんやけどな、と項垂れる。  マネージャーに頭を下げて、この文化祭の為にスケジュールをどうにか調整してもらった。アイドルとして活動するキヨリにとっては、どれもとても大切な仕事だったけれど、最後の思い出に、と事務所社長自ら何とかしてくれた。
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